勉強していたら、机に置いたケータイが鳴った。
クリスマスイブ。受験生にそんなものは存在しない。
一般入試だから、今が大事な時期。
年末年始といえど休んでる暇はない。
ディスプレイを見ると寮に住む幼馴染からだった。
しばらくぶりだ。最後にあったのは去年の正月か。
今年の夏は帰ってきてたのか帰ってきてなかったのか知らないけど、会えなかった。
ただ、ハコガクが負けたというのだけは聞いた。会いづらかったのかもしれない。
優勝するから、したらお願い聞いてって言われてたし。
そりゃそうだ。そんだけ言っといて負けたならかっこ悪くて会えない。
あいつは変なとこでカッコつけだから。謎のポーズとか。
メールを開封すると中身は案外短かった。
外出てきて。それだけ。
試しにカーテンを開けてみる。下にはケータイを握りしめ愛車に跨った隼人がいた。
なにやってんの、あいつ。
部屋着で勉強していたので、ケータイだけを持って適当な上着を羽織って外に出た。
久々に会った幼馴染は約一年ぶりだというのに背が伸びている気がした。

「よ」
「久しぶり」

ネイビーのダウンジャケット。これ去年も着てたな。
手はポケットに入れられている。寒そうだ。
寒がりのくせに、なんでここに来てるんだ。
箱根からここまでは30kmくらいある。
チャリで来たのか。今更ながら、さすがだと思う。
一時期自転車に乗れなくなったと言っていたけれど、今はそんなことないらしい。

「どしたの、突然」
「や、今年の夏会えなかったから」

それで今か。クリスマス。
暇なやつだ。彼女はいないらしい。
モテるだろうに、自転車に明け暮れて断りまくってんだろう。
せっかく高校生なのに。少しくらい甘酸っぱい青春を味わってみたらどうだ。
私?聞くなよ。

「今年、勝ったらさ」
「うん」
「おまえさんに告白するつもりだったんだけど」
「は」
「ダメだったから、言うのやめるわ」

突然の告白に戸惑った。
いや、厳密には告白じゃないけど告白で、そういうことじゃなく、愛の告白ではなく、事柄を告げるという意味での告白。
あれ、混乱してきた。まさかこいつ、私のことが。
ていうかしないって言ったのに今言ってんじゃん。なにやってんの。バカなの。

「インハイ優勝したらお願い聞いてって言っただろ、あれ、オレと付き合ってて言う予定だった。」
「そ、そうなんだ」
「でもそれもう使えないから。諦めようかと思ったけど、無理だったし。正攻法で来てみたんだ。」

正攻法。こいつの正攻法はクリスマスイブの夜30kmをチャリで走ってきてアポなしで訪れることらしい。
もし私に彼氏でもいて、デート中だったらどうするつもりだったんだ。
いや、彼氏なんていないけどね。いないけど。

「名前、志望校どこだっけ」
「え、明早大…」
「そこさ、オレと寿一もなんだよね」
「は?!」

まさかの志望校が被った。
自転車のサークルがあるとは聞いてたけど、まさか。ていうか福富くんも。
福富くん、中学以来会ってないぞ。なんかそわそわする。
ていうか隼人と同じ大学なんて、マジか。
…まだ受かってないから、わからないけど。

「じゃあ福富くんと隼人、10年コース?」
「まぁね」
「長いね」
「名前ほどじゃないよ」
「や、そういう意味ではなく」

学校が。いいかけたとき、隼人の腕が伸びてきた。
思わず目をつぶる。自転車が傾いて、ハンドルが腰に当たった。
腕は首に回されている。近い。
程なくして、それは離れた。首に何かが当たる。これ、

「クリスマスプレゼント」
「え」
「名前が明早大受かりますようにーっていうおまじないな」
「あ、ありがとう」

ピンクゴールドの指輪に白く光る石が埋まっていて、それがチェーンに通されたネックレス。
デザインは好みだし、シンプルで可愛らしい。
服も選ばなさそう。センスがいいなと思った。

「んで」

隼人がダウンジャケットの上まで上げていたチャックを下げた。首筋が露わになる。
そこには、私が首にしてるのと似たようなものがあった。
色はピンクゴールドじゃなくてシルバーだったけど。

「おそろい」
「っは?!」
「嫌?」
「いや、え、いやじゃないんだけど、そういうことじゃなくて」
「名前、絶対大学通れよ。じゃないとオレの計画崩れるからさ」
「は?言われなくても通るつもりだけど…」
「バキュン」
「え?」
「大学入ったら、名前のこと仕留めるから」

じゃあなと愛車のペダルに足をかけると、とんでもないスピードで来たであろう道を走って行った。
バキュン、仕留める?

「ばっかじゃないの…」

顔と、首の周りがじんわりと熱を持った。寒いのに熱い。
走って部屋へ戻った。勉強しよう、勉強。絶対合格しなきゃ。
私、やれる気がする。
去り際の寒がりのくせに熱そうなくらい赤くなった幼馴染の顔を見て、気合が入った冬の話。

131224





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