「名前ちーん」

教室の出入り口から大きな体が文字通り顔を覗かせている。
紫色の目立つ髪色を見つけると、名前はぱっと顔を輝かせた。
紫原はその笑顔を見てまた頬を緩ませ、教室へと入ってくる。
一番奥の後ろの席、特等席であるそこは名前の座席だった。
紫原は彼女の前の席に座り、昼食よりお菓子の多く入った袋を机に置いた。
名前は机の横にあるフックにかけられたスクールバッグから小振りな巾着を取り出し、その紐をほどく。

「あっくんとご飯食べるの久しぶり」
「そだねー」

最近ずっと室ちんとだったし、と紫原はコンビニの袋を開く。
ポテトチップスを筆頭に、色鮮やかなスナック菓子の中に埋もれるように菓子パンが入っている。
およそ男子高校生の昼食にしては、不健康すぎる量だ。
名前はそれを見て眉を下げる。
ちゃんと食べないと、という言葉に紫原は頬杖をついて「名前ちんが作ってくれるならお菓子以外も食べる」と言った。
その言葉に少し赤面して、照れた様子を隠すように名前はお弁当箱をあける。
母が作ってくれたそれは自分で作るのよりも彩りも栄養バランスも味も良い。
これくらい作れるようになったら作ってあげたいのにな、と名前は一人心の中で料理の勉強を決意した。

「名前ちんのお弁当いつ見てもうまそーだよね」
「うん、お母さん料理得意なの」

父との結婚を考え出すようになってから料理教室に通い猛特訓したという母の料理は、努力の甲斐あってなかなかのものだ。
父のために、という部分に名前も少なからず憧れを抱き、目の前の男のために自分もそうしようとしている。
そしていずれは、父と母のような関係に。
そこまで考えて、名前は頭を振った。
まだお互い高校一年生。
年齢上でいうと名前は結婚ができるが、紫原にはあと2年分時間がある。
第一、高校卒業してすぐに結婚なんてできるはずもない。
高校で初めてできた彼氏と結婚、夢見すぎだと自分でも思う。
しかしそう願わずにはいられないほど、名前は紫原が好きだった。
彼も同じように思っていたらいいな、そう思いながら淡い黄色の卵焼きを口に運ぶ。

「名前ちん、あーん」
「ん、」

卵焼きを咀嚼して、次のおかずに手を伸ばそうとしたときに目の前に食べかけの菓子パンが現れた。
言わずもがなそれは紫原の菓子パンで、間接キスを意識しながら名前は髪を耳にかけてそれを口にする。
甘い味が口いっぱいに広がった。ゆるく笑ったパンの向こうの男の顔がやさしい。

「間接キスだね」
「うん…」
「照れてる?」

そりゃ、と名前は俯く。
直接したこともあるけれど、まだ交際歴の浅い二人は数える程しかしていない。
手が触れるだけでもまだ照れる二人の進行速度は早いとは言えない。
といっても、主に照れているのは名前で、紫原はそんな彼女を見て頭を撫でて足を止める。そんな状態だ。
お弁当はのこりおかずもふりかけのかかった白米も一口分になった。
紫原はすでにポテトチップスの袋を開けていて、油とコンソメの味が周囲に広がった。
匂いが混ざる前にと手早く口の中にのこりのお弁当をかきこむ。
もぐもぐしていると、紫のポテトチップスに伸びていた手が止まった。

「あ、名前ちん」
「なに?」

机の上に置いてあった名前のポケットティッシュを一枚とって指を拭いてから、名前の口を掠める。
おべんとついてるよ、と紫原は名前の唇についた米粒をつまんで、それを口に運んだ。

「あ、あっくん!」
「もーらい」

いたずらっ子みたいに笑う紫原に、頬が熱くなる。
そんな照れた名前を見て紫原はまたにやりと笑う。
紫原は何かを思いついたという風に名前を呼んで、立ち上がった。

「なに?」
「こっちきて」

窓際の特等席から光の差し込む窓際へ。
紫原は窓を開けてカーテンをひいた。
風がカーテンを翻し、二人はカーテンに包まれる。

「じっとしてて」
「ん、」

大きな体を折って、口付けた。
突然のことに驚きながらも、幾度か唇を重ねると名前もおとなしく紫原のワイシャツを掴むようになる。
カーテンの向こうにいるクラスメイトのことを忘れて、何度も何度もキスをした。

「っはぁ…」
「アラ?名前ちん、前に息とめちゃダメって言ったのにまだ止めてんの」
「だ、だって」

何度しても自分のキスはうまくならない。
紫原ばかりどんどん気持ちいいキスを覚えて、置いていかれるような感覚。
どこで覚えてくるのだろう、その体躯に似合わないくらいの優しい髪の触れ方や腰の抱き方は。

「じゃ、練習しよ」
「え、ちょ」

触れ合ったばかりのそこはまだ潤っていた。
名前ちんのキスは下手でもいい。だって、練習てことにすれば何回でもできるし?まあ、下手じゃなくてもするけど。
赤い顔をカーテンからも隠すように、紫原は名前の頬を大きな手で包んだ。








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鹿様リクエスト、紫原の甘え甘えられな甘夢です。
1年ぶりくらいに紫原かいたら、口調分からなさ過ぎて死にそうでした。
間違ってたらホントにごめんなさい…漫画読み直そう
紫原くんはやっぱりかわいいしかっこいいですね!そういう文がかけるようになりたい
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