自転車のときは別として、あきらくんは普段、口数が少なかった。
今でこそ自転車に関しては饒舌だけど(勝つため、らしい)、割と親しいと自負している私といるときでも、あそこまでペラペラ喋らない。
一度、「私といるのめんどくさい?」って聞いたことあるけれど、無言で頭をはたかれたからきっとそんなことないんだろう。
そういう質問をする私が一番めんどくさいってわかってるんだけど、そういう質問をさせるあきらくんも大概めんどくさい。
私達はめんどくさい同士なのだ。


「名前ちゃん、帰るで」
「あ、うん。えっと、石垣…さん、おつかれさまでした」
「あぁ…ありがとう。名字さん」

私は自転車が詳しくないし特に興味もない。
ので、いつもあきらくんの部活が終わるまで、図書館で本を読んで時間をつぶす。
時期によっては、勉強する。お陰で成績は悪くない。
時間になると部室前まであきらくんを迎えに行く。
その時は大抵、石垣先輩が残ってるから、挨拶して帰る。
石垣先輩、と私が呼ぶとあきらくんは機嫌を悪くするから、さすがにあきらくんみたいに「石垣くん」と呼ぶわけにもいかないので、さん付けで呼んでいる。

「おつかれさま、あきらくん」
「別につかれてへん」
「一応言っとくもんだよ」

この後あきらくんは家に帰ってもまだ走る。
自転車を乗せるローラーの上とか、時間のあるときは近くの山まで上がっていく。
常に走っている。勝つために。
でも下校のときだけは、その体に見合わないサイズの自転車から降りて私の横で歩いてくれる。
それが嬉しくて、いつもゆっくり歩いているのはナイショだ。きっとあきらくんは、私の歩幅が小さくてトロいと思っている。

一緒に帰っても、話すことは特にない。
私の友達のことなんてあきらくんは興味ないし、学校の勉強の話も広がらない。
あきらくんが興味あることといえば自転車くらいなものだけど、それは私が話題についていけない。
言えたとして精々あきらくんの乗ってる自転車のロゴ、かわいいねくらいのものだ。

あきらくんがお世話になってる親戚の家が、私の家の隣にある。ただそれだけ。
ただそれだけの関係だ。私達は。

「…あ」

帰り道にいつも通るコンビニ。
朝通ったときはなかったのに、ガラスの壁に「新作デザート」とコピー用紙を貼り合わせた看板ができていた。
つい目がいって、足が止まる。
あきらくんは2歩ほど先に進んだ後、立ち止まった。

「いくん」
「え、いやいいよ」
「いったらええやん」

行くとは言ってないのに、あきらくんは自転車をコンビニの横に止めて中に入っていった。
財布に100円玉が三枚あったのを確認してから、小走りであきらくんの後を追った。



「えへ、えへへ」
「キモいで」
「だって」

コンビニを出て、さっき貰ったばかりのビニール袋からそれを覗き込む。
ピンクと赤と白で構成されたそれは、私の大好きなイチゴのムース。
ケーキ屋さんでたまに食べるけれど、コンビニのは初めてだ。
早く食べたい。そわそわ小躍りしながら、いつもの公園横を通る。

「…それ、かえってからたべるん」
「え、そうだけど」
「はよたべたいんちゃうん」
「そうだよ?」

早く帰れという意味かと捉えたけれど、そうではないらしい。
肘の辺りを掴まれて、そちらに体が揺れる。
あきらくんは車避けを避けて、自転車を公園の中に持っていった。
薄暗い公園には誰も居ない。ブランコが寂しそうに揺れている。

「スプーンあるやろ」
「ある」
「ここで食べ」

あきらくんがブランコに座ったので、私もその隣のブランコに座った。
きこきこ、と小さく音を立ててあきらくんがブランコを揺らす。
大きな体に小さなブランコが不釣合いで、なんだか面白かった。

「それ、おいしいん」
「おいしいよ、食べる?」
「いらんわ」
「あきらくんこういうの嫌いそうだもんね」

黙々とムースを口に運ぶ。
最近のコンビニデザートは侮れない。200円ちょいの値段なだけある。小さいけれど。

「それ食べたら帰るで」
「え、かえるの」
「……まだおるん」
「あきらくん、私と一緒にいたいから公園に寄ったんでしょ?」

そういうとあきらくんは押し黙って、きもと小さく呟いた。
お見通しなのだ。あきらくんがコンビニと公園に寄った理由も、私がもっと一緒にいたいと思っていたことも。



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