…寿一と喧嘩してしまった。

最初は些細な言い争いが原因だった。
だけど言われたことにかちんときて、全く関係ないことも引き合いに出して、最後はただの怒鳴り合いだ。
朝のホームルームが始まるまで寿一の教室で騒いで、チャイムと同時に新開に止められて自分の教室に戻ってきた。
きっと寿一はすごく教室に居づらいだろう。
それに、喧嘩の勢いで「もう寿一なんか知らない、嫌いだから!」なんて口走ってしまった。
…言った瞬間の寿一の顔が頭から離れない。
いつも何言われても表情を変えないのに、普段と変わらない難しい顔で言い返してくると思ったのに、すっごく悲しそうな顔で「そうか」と言われてしまった。

もちろん後悔はしてる。
今までは喧嘩するたび、しばらくしたら寿一は仕方なさそうに折れて頭を撫でてくれた。
それが仲直りの合図だったのに。
嫌いだなんて初めて言った。
あんな傷ついた顔、初めて見た。
もう話してくれないかも、頭も撫でてくれないかもしれない。
そんな思いがぐるぐる回って、私は休み時間になるたび寿一の教室に行こうか悩んで、足を動かせずにいた。
寿一に嫌われたらどうしよう、なんて嫌いだと言ったのは私なのにそんなことを考えてしまっている自分が嫌だった。
こんなことを言う女の子なんて、好きになってくれるわけない。
1時間目は机に突っ伏して泣く私に何があったのと聞くクラスメイトがいたけれど、何も答えない私に4時間目にはクラスメイトも察したのか腫れ物を扱うような態度になっていた。
泣き疲れたのか、お腹がなる。
いつもは寿一とごはんを食べているのに、今日は行くことができない。
仲のいい友達はみんな彼氏とかいい仲の男の子と食べているから混ざるわけにもいかないし、今日は一人でごはんを食べることになりそうだ。
そんなことを考えるとまたさみしくて涙が出そうになって、「寿一」と呟きそうになって口と目を押さえた。

「名前」

名前が聞こえて、振り返る。
寿一かと振り向いたけれどそんなことはなく、そこには派手な明るいあたまが立っていた。

「しん、かい」
「ずっと泣いてたのかい」
「う、うるさい」

泣き顔を見られたくなくて目を擦ると腕を掴まれて「赤くなる」と言われた。
「うさぎみたいだ」「ウサ吉の目は黒いから違うね」
新開の顔が間近にあってまた泣きそうになる。
私の目が潤むと新開は寿一がいつもするように私の頭をぽんぽんと撫でてくれた。

「なんできたの」
「名前が一人で飯食うんじゃないかと思ってさ」
「…ありがとう」

さみしかったから、新開の優しさが胸にしみた。
こんな優しいやつだっけ?と思ったけれど、今は新開に甘えたい。
新開の胸板に顔をすりつけた。シャツに涙が滲む。
いつもだったら寿一に怒られるからこんなことしないのに、やっぱりこんな子のこと嫌いになっちゃうかな。

「えぐっ、し、しんがい…」
「ヒュウ!大胆だな、いつもなら止めるけど、今日は許可をもらってきたからな」

許可?
胸から顔をあげると新開はにやっと笑った。

「やっぱり言うよ。寿一に名前と一緒にメシ食ってこいって言われて」
「じゅ、いち?」

なんで?
疑問を投げかけると心配なんだよとにやっと笑った。

寿一は私がいつも寿一とごはんを食べていたから、昼休み一緒に食べるような友達がいないことをきっと知っていた。
だから多分、喧嘩で一人で食べることの内容に、私がさみしくないように新開を送り込んだんだろう。
遠回しすぎる優しさに涙が出た。
今度は新開の胸を借りれない。
いつもは新開と仲良くするとさりげなく離そうとするのに、こんなことするなんて。

「じゅ、じゅいちのばか…」
「名前が言うのか?」
「…っるさい!ううぅ…」
「あ、謝るなら寿一は屋上にいるよ。靖友と尽八と食ってる。」
「いってくる…」
「じゃ、オレも」

開こうとしたお弁当袋を包み直して、目が涙で潤んだまま屋上を目指して走り出した。
早く会いたい、それで言うんだ。ごめんなさいを。





「寿一ごめんなさい!大好き!」


131203






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