タイツがなくなった。


うちの学校では、体育の授業でのタイツの着用は認められていない。
それでも冬はさむいので私は毎日着用していて、体育の時間だけくるぶしソックスに履き替えることにしていた。
タイツは更衣室の棚、制服を置いておく場所に一緒に置いていて、着替えと同時に脱いでいる。
正直面倒だけど、体育の先生は普段優しいくせにお説教が長いので仕方なくこうしている。

その日もタイツは更衣室の棚に置いていた。
棚には鍵どころかドアもなく、部屋に入ればものを持ち出し放題だ。
だからもちろん更衣室の鍵を閉めなければいけないのだが、これがとてつもなく面倒なのだ。
閉めた鍵は職員室に戻さなければいけない。でも、体育館とグラウンドは職員室と真逆の場所にある。誰が喜んで返しに行くものか。
女子生徒たちは決まって鍵を更衣室のすぐそばにある靴箱の一番上に置いていた。
だから正直開け放題なのだ。いつ何がなくなってもおかしくない。

この状況で私はタイツをなくした。

盗まれたのは自分だけじゃなかった。
私以外にも同じくタイツ派は同じクラスに2人いた。
その2人も帰ってきたら体育の授業からなくなっていたらしい。
他の2人のタイツの価値は知らないが、私とタイツは古いわけではないが少し引っ掛けて、伝染しそうになっている箇所があるので、わざわざ女子が持って行くほどいいものでもない。
普通の黒タイツだし、4足1000円のお手軽なものだ。
となれば男子の犯行の可能性が高いんじゃないか、とタイツ派その1の委員長が言った。
世の中にはタイツフェチというものがあるらしい。
私には理解しがたい世界だが(だって、好きな男子でも使用済みの靴下を欲しいって思ったことはない)男子には男子の世界があるのだろう。
その日は仕方なく残りの授業をくるぶしソックスで受けた。ダサい上に寒い。いいことは全くない。
友達がひざ掛けを貸してくれたのが唯一の救いだった。
もう2,3回履いたら捨てようと思っていたタイツなのでくれてやってもいいのだけど、せめて代わりのタイツを置いてってくれたらな、そう思った。


「ってことがあったの」
「はぁ?」

キモ、と御堂筋くんは言った。
タイツ泥棒がキモいのか私がキモいのか、おそらく両者だ。
彼はそういう人だし、最初こそキモいといわれて傷ついていたけれど正直もう慣れた。

「それなんでボクに言うん?意味わからんで」
「いや、一応言いたくて。もしタイツを3本持ってる人がいたらその人に言っといてくれない?せめて新品返して、って」
「言うわけないやろ、ありえへんわ。」

ですよねー。無駄なことを言ってしまった、と思いながら紙パックのミルクティーを飲み干した。
寒いから、100デニールのタイツを買おう。




と、思ったら、次の日ロッカーにタイツが入っていた。
新品(しかも一足1000円のイイヤツ)と、開封済みのタイツだ。太もものところに引っ掛けた後がある。間違いなくこれは私のだ。でもなんで?
振り向くと御堂筋くんがいた。
おはよう、と挨拶しても普通に無視で、「返ってきてよかったなぁ」と言われた。
その言葉にただならぬ何かを感じずにはいられなかったが、言っても無駄だと思ったので、肯定だけした。
正直一度なくなったタイツなんて返されても困るし何に使われたかもわからないので捨てるしかないのだが、自分の知らぬとこで自分の知らないような用途で使われているよりはましだ。
後で聞くと同じくタイツを盗まれた二人のところにもタイツは返ってきていたらしい。1000円のタイツは入っていなかったそうだけど。






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