私は遠距離恋愛をしている。
彼氏は神奈川。遠い。
知り合ったきっかけはというと、私のお母さんが箱根の温泉が好きで、毎年年末年始は必ず旅行に行く。
旅館も馴染みのとこに泊まっていて、そこの息子さんが彼だった。
母とその旅館の女将さんは親しい友人らしい。

初めて会ったのは小学校1年生の頃。
仲良く遊びなさいとお母さんと女将さんに紹介されたのが彼とそのお姉さんだった。
年に一回とはいえ、何度も会っていれば友達になる。
滞在期間は三日間。温泉を楽しめる年でもない私は暇をその二人に遊んでもらって過ごしていた。

中学になるとお互いケータイを買ってもらって連絡先を交換した。
お姉さんは彼氏もいて忙しくあまり連絡は取り合わなかったけれど、尽八くんはよく電話もメールもしてくれた。
会うのは年に一回三日間。
それは変わらなかったけど、連絡手段ができたことで私たちは一気に仲良くなった。
そして告白されたのが中二の頃。
当然、返事はOKだった。明るくて話も面白い尽八くんが好きだった。
高校入試の時はお互いに励ましあい、志望校に合格した。
忙しくなったけど、最低週一で電話はしていた。
そして今日、高校入学してから三度目のクリスマス。

「もしもし、名前ちゃん?」
「尽八くん!メリークリスマス」
「ああメリークリスマス。元気にしてるかね、風邪は引いてないか?最近寒いからな、ちゃんと布団を被って寝るんだぞ」
「わかってるよもう!お母さんじゃないんだから」
「名前ちゃんはたまに布団を蹴って寝る癖があるからな」
「…なんで知ってるの?」
「な、あ、いや、ナイショだ」

こっそり寝てる時に来たのかな。狼狽える尽八くんがかわいい。
ごほんと咳払いをして、尽八くんは無理やり話題を変えた。

「もうすぐ会えるな」
「そうだねー。大学推薦もらえてよかった。一般だったら、箱根行ってる暇なかったかも」
「それは困る!」
「私も困る!」

真似をして言うと、受話器から元気な笑い声が聞こえてきた。
年に一回しか会えないのに。電話でも結構我慢してるのに、会えなくなったら困る。
これも必死に勉強して素行良くして推薦とったおかげですぞ、と冗談めいて言うと、真面目なトーンでお礼を言われた。
その声にどきっとして、頬に熱が集まった。

「む、今名前ちゃんかっこいいって思っただろ?」
「なん、でわかったの」
「ワッハッハ、名前ちゃんのことならなんでもわかるぞ?またどうせベッドの上で体育座りをして髪も乾かさずに電話してるんだろう」

図星だった。カメラでもついてるのかと言わんばかりに尽八くんは言い当てた。
お見通しなんだな。私も尽八くんのことを想像してみる。
声からして、ベッドに寝転がっているんだろうか。
またきっと自分の名前にかけた8とか書いた服着てるんだろうな。
カチューシャは私が去年あげた深緑のやつ。
そう言うと大正解だと言われた。
ほんとに?と疑うと、写メを送ってもいいぞと言われる。
そんなに疑ってるわけじゃなかったけど、尽八くんの写メが欲しい。お願いした。
交換で私のも送ることになったけど、まあしかたない。
がんばって写り良くなるように撮ろう。

「名前ちゃん」
「んー?」
「早く会いたい」
「わ、私も早く尽八くんに会いたい」
「名前ちゃんと電話してるとな、そっちに行って抱きしめたくなるよ。キスしたくなる」
「じ、尽八くん!」
「本心だよ。どうだね今年は、名前ちゃん。オレの部屋に泊まってみないか」

東堂の旅館一番の部屋だぞ。
声色はいつもと変わらないけれど、少し震えてる気がした。緊張してるのかもしれない。
意味がわからないほど私も子供じゃなかった。
お父さん、お母さん、許してくれるかなあ。

「…お母さんとお父さんに、交渉してみマス…」
「っ、本当か?!」
「うん…。だ、ダメって言われたらわかんないけど、お願いしてみる」
「わかった!オレも母さんに話しておこう」
「オネガイシマス…」

なんかすごく恥ずかしいことをしてる気がする。頬だけじゃなくて、全身が熱い。
向こうの旅館で過ごすのは31、1、2日。
あと一週間もある。長いなあ。でも、心の準備が、一週間じゃ足りないかもしれない。
ふわふわした気持ちのまま電話していたら、日付を超えて2時間経っていた。
もっと話していたくても、眠気が襲ってくる。
それを察して何度も大丈夫かと聞いてくれたけど、もうちょっともうちょっとと言っていたらこんな時間だ。
尽八くんも眠いだろうに、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「ごめんね、わがまま言ってこんな時間まで」
「構わんよ、名前ちゃんとなら。それに、来週は寝かせてやれんかもしれんぞ?」
「え」
「あっ悪い寮監が!切るぞ名前、おやすみ。好きだぞ」

電話が切れた。おやすみ?いやいや、寝れるわけないでしょう!



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