あれからすぐ、東堂くんは連絡をくれた。
絵文字が使われた、要約すると「東堂だ、今日はありがとう」というメール。
ありがとうを言うのはこっちなのに。とりあえず返信しようと画面を立ち上げた。
「こちらこそありがとう
いつもレース見てるだけだったから、東堂くんとメールしてるのがちょっと変な感じです」
適当に絵文字を添えて送信。
素っ気なかったかな、女子力のあるメールってどんなだろう。
そう考えてるうちに返信が来て、今度は「気軽にメールしてくれよ。そう言われると照れるな、よかったらまたレースを見に来てくれ」という内容。
そういえば、東堂くんに告白をされて以来、レースには行っていなかった。
公式レースがあるのかは知らないが、部内でのクライマー同士のレースも見に行っていない。
普段は友人が誘ってくれるのだが、最近はそれもなかった。
今まではレース自体を楽しんでいたけれど、もっとちゃんと走っている東堂くんが見てみたい。
私、東堂くん自体に興味を持ち始めてる。ほだされてるなぁ。
レースにいきたいなという文面の返事をして、ケータイを閉じた。







「新開新開!名前ちゃんが!」
「どうしたんだよ尽八うるさいぞ」

部活が始まってから尽八は騒がしかった。
なんなのかと思えばオレを見るなり走ってきて、ケータイの画面をこちらに向ける。
名前ちゃんと書かれた画面には丁寧に電話番号メールアドレス性別誕生日星座血液型が載っていた。あと、アイコンは名前ちゃんの写メ。これはオレがあげたやつ。
いままでうだうだやっていた尽八はCDを借りた日から押すようになったらしく、たまに廊下で話しているのを見る。
そのときの尽八の笑顔といったら。ファンの女の子に見せたら一発で悩殺。それくらい輝いてる。
本命の名字さんには効いてないようだけど。尽八が言っていた「名字さんが尽八を好きというのは嘘」というのはマジらしい。
やっとメアドをゲットした尽八は舞い上がっていて、今日の練習の調子もよかった。
そのすごさといえば寿一が褒めるレベル、靖友がドン引きするレベル。もっとわかりやすく言えば真波が起きるレベル。
ただでさえ今日一日テンションが高かったのに、部活が終わってもこれだ。
半分脱ぎかけたジャージを全部脱いで、尽八を見るとまたケータイの画面を見せてくる。
さっきとは違う画面。メールの画面だ。
「よかったらまたレースに行きたいな」と控えめな絵文字付き。
さっきからケータイとにらめっこしてなんだと思えばそういうことか。Tシャツを着ながらよかったなと言う。
舞い上がり踊り出しそうな尽八を寿一は微笑ましそうに…いや、顔は普段と変わらないけど、雰囲気そんなかんじで見つめ、靖友はうぜえうぜえと言っている。
泉田はちょっと引き気味でオレの様子を伺っていた。
他の後輩も東堂さんすげえと囁きあっている。いろんな意味で、な。

「フク!次の部内レースはいつだ?!明日か?!」
「一昨日したばかりだからもう少し先だが」
「そんな!早めよう早めよう!明日!」
「ダメだ。それは急すぎるし準備も整っていない」

副部長権限でも、部内レースは早められないらしい。
尽八はとっととかっこいいところを見せたいのか、まだ寿一にごねていた。
寿一があからさまに困っていて、荒北が噛み付くが無視。
さらに騒がしくなる部室に後輩が困惑してる。しかたない、先輩らしいとこ見せるか。

「まあまあ、部内レースじゃなくても明日は山の練習あるんだしそこでレース持ちかけたらどうだ?その方が自由に走れるだろ」
「ほう」
「真波あたり誘ってさ。かっこいいとこ見せたいんだろ?」

オレですかあと半裸の真波が言った。
尽八は何か考えるそぶりをして、真波かと呟く。
結構名案だと思ったんだけど、何かが引っかかるらしい。

「真波か…真波な」
「なんだよ、不満か?なんなら黒田とかでも」
「真波はオレと女子ファン争いをしてるからな。負けることはないと思うが名前ちゃんがもし真波に興味を持ってしまったらと思うと不安で」

そっちかよ。
真波の乾いた笑いが聞こえる。黒田にするかと言うと真波は「当て馬は嫌だけどレースはしたかったなあ」と言った。泉田が今この場にいない黒田を偲んでいる。

「じゃあ決まりだ!明日黒田とレースをしよう。それなら構わないな?」
「ああ」
「よし!じゃあ名前ちゃんに返信しなくては」

女子高生ばりの速度で返信して、尽八は浮かれた空気のまま着替えに戻った。
世話が焼けるな。でもオレ、尽八と名字さんが楽しそうに見てるところ好きだから。協力するよ。



ネクタイを締めた頃、「ごめん明日は用事ある」と返事がきた時の尽八については、話をしなくていいよな。




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如月様リクエスト、嘘本気続編でした。
前に書いたのが大分山神がいい思いしていたので、今回はギャグで。山神ごめん。いつか幸せになるといいですね
131226




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