ソイツはよく同性にモテた。
中性的なナリをしているわけじゃァない。
パっと見はフツーの女だし、私服もスカートとか履くタイプ。
ただ行動がそこらの男よりも男前というか大胆というか、とにかくそういうわけでモテていた。
校内での人気はあの自称美形の東堂と二分するほどで、去年のバレンタインではどっちが多くチョコをもらえるか、なんつって競いあっていた。

オレはそんなソイツが好きだった。



その日はクソダリィ掃除当番だった。
悪いけど荒北くんゴミ捨ててきてもらえないかな、と怯えながら委員長の女が申し訳なさそうに言う。
普段ならゼッテー行かネェ。
でも、窓の向こうにゴミ処理所のほうへ歩いていく名字チャンの姿を見つけて承諾した。

ゴミ袋を縛って廊下を駆け出す。
途中新開とすれ違って声をかけられたが無視をした。
好きな女の姿を見つけたから理由つけて走っていく。
そんな自分に気持ち悪ィと思ったが、体が勝手に動くんだから仕方ない。

ゴミ処理所前の角に差し掛かったとき、二人の女の声が聞こえた。
片方はか細くて聞いたこともネェ声だったが、もう片方は何度も聞き耳を立てた声だった。
さっき歩いてった名字チャンだとすぐに分かる。
いつもなら知らない女のことなんか気にせずに飛び出していくが、今日はそれが出来なかった。

角から片目が出るくらい顔を出して覗き込む。
名字チャンより少し背の低い黒髪の女は茹蛸のような顔をして、スカートを握って落ち着かなさそうにしていた。
名字チャンはコッチからじゃ背中しか見えない。
すぐに告白されてンだなと理解した。
昼休み、名字チャンを呼び出す女を何度も見たことがあるからだ。
「好きです」と女の口が動く。
いつか言ってやろう、そう決めている言葉を言いたい相手が言われている。
性別はどうあれ心臓が痛ェ。
名字チャンはそのケがないから心配は不要だとしても、気分のいいモンじゃない。
嫉妬、嫉妬、嫉妬。コレが男だったら多分飛び出していっている。

女がまた何か言って、涙を潤ませたあと名字チャンに抱きついた。
その後女は腕を名字チャンの首に回して、名字チャンは女の顔に手を添えて、
キスをした。

「ッ…!」

一方的じゃない。どう見ても名字チャンは受け入れていた。
どういうことだ、女には興味ネェんじゃなかったのかヨ。
女は名字チャンから離れるとお辞儀をして、泣きながらオレの横を走っていった。
状況が理解できない。なんで女は泣いてたんだ。何で名字チャンはキスしてたんだ。

思わず角から飛び出した。
足音に気づいて振り返った名字チャンと目がバッチリ合う。
「荒北」とのんきに名前を呼ぶコイツの口を塞いでやりたくて仕方がなかった。
その衝動を握り拳で抑えて、一歩ずつ名字チャンに近づく。


「なに、ゴミ当番?」
「マァ、ネ」
「めずらし、明日ヤリが降るかもね」

軽い声をあげて笑う名字チャンとは対照的にオレの感情は真っ黒に染まっていく。
距離を詰めるとゴミ袋を投げ捨てて、名字チャンの腕を掴んだ。

「え、なに荒北」
「名字チャンさァ、さっきなんでキスしてたのォ?」

名字チャンの目が面白いくらいに見開かれた。
少し動揺を見せたあと、またなんでもないようにして笑う。

「やっぱ、見られてた?アクシュミだなぁ」
「何、あの女子と付き合うのかヨ」
「まさか!ていうか私前に言ったじゃん荒北に、女の子と付き合う気ないって。忘れたの?」

忘れるわけネェ、名字チャンと話したことはゼンブ覚えてんヨ。
それでも不思議でしかたネェんだ、何でそんな簡単に唇をやれんのかって。
オレが何度も夢に見て、ずっと欲してるソレを名前も知らない女子に。

名字チャンは俯きながら、キスの理由を話し始めた。
1年の終わりに、卒業する先輩に「忘れるためにキスしてくれ」と頼まれてしたこと。
それ以来噂になって、名字チャンのことを好きな女子が告白するたびに断る代わりにキスをするようになったこと。
今では「諦めますからキスしてください」と言い寄ってくる女子がいること。

「だから恋愛感情はちっともない!まーファンの子達のためになるなら私の唇くらい安いもんだよ」

そのまま押し倒して唇を奪ってやろうかと思った。

「ソレって、女限定なのォ?」
「え」
「オレにもしてヨ」

諦める気なんか更々ネェけど。

校舎の壁に名字チャンの体を押し付けて、腕で逃げられないよう閉じ込める。
檻の中にすっぽり納まった名字チャンを見て欲情した。

数え切れネェくらいたくさんの女にしたんだったら、今更オレにするのも変わんネェ。
このまま名字チャンが誰かを好きになって、ソイツにキスをするってんならその前に、オレが貰ってもいいんじゃナイ?

「あ、らきた」
「オレ、名字チャンのこと好き、スゲー好き、ダァイ好き。愛してる。でも名字チャンオレのこと全然見てくんネェし、このままだったら死んじまうから、だから」

キスして諦めさせて。

髪に触れて、顔を近づけた。
だけど柔らかい感触はなく、オレの唇が触れているのは名字チャンの手のひらだ。

明らかに拒絶、された。

「ナニ、オレじゃキスもしたくないって、こと」
「ちが」

違うことネェだろ。顔はさっきの女と同じように茹蛸状態で、薄く瞳に涙を浮かべた名字チャンを見下ろす。
違う違うと子供のように口にする名字チャンにイライラする。
もうやめてヨ、このままじゃ名字チャンのこと犯しちゃうかも。
自制が利かなくなる時が近い。
ドス黒い感情がオレを襲ってきて、ヤベェと思ったときに何か柔らかいものがオレの腹に当たる。

抱きつかれていると気づくのには少し時間がかかった。

「…ナニ、コレで我慢しろってコト?」
「ちが、あの、あらきた、えっと」

オレの胸板に顔を埋めて名字チャンはもごもご喋る。
ソレが擽ったくて、でも気持ちよくて、一瞬黒い感情がどこかへ消えたような錯覚さえした。
今更こういうことされて甘くなるなんてオレも相当ヤバいらしい。

「あのね、荒北、きいて。

私、荒北と今はキスしたくない。
だって、そしたら、荒北が私のこと、諦めちゃうんでしょ」

耳を疑った。
名字チャン、その言い方じゃ名字チャンがオレのこと好きみたいじゃネェ?
少なくとも今のオレにはそうとしか聞こえネェし、心臓の鼓動が早くなる。

「…そゆこと言うと、勘違いするダロ」
「勘違いじゃない、私、荒北が好きだよ」

だから嫌だ。
そう言ってまたオレの腹に回った腕に力を込めた名字チャンを引っ剥がす。
驚いた顔した名字チャンに、拒否する隙も与えずに口付けた。


「バァカ、諦めるわけネェだろ」


諦めるどころか、コレが始まりだ。




131210
高校に本当にいました。女子に告白されて諦めさせる代わりにキスする子。




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