なぜここを選んでしまったのか。
私がバイトしているのはハコガク最寄りのコンビニだ。
学校からアルバイトの許可をもらっているからバレたらまずいなんてことはないけど、学校の知り合いが来るのがめんどくさい。
いままでもめんどくさかったけど、今日は特にめんどくさい。
なぜなら今日はクリスマスイブ。恋人たちが愛を囁き合う日。
私？今日は１０時までシフト入ってますが。
それだけでも切なくて、これ学校の人に会ったら「うわ名字イブまでバイトかよ」と思われること間違いなしなので嫌だなと思っていたら、オーナーが追い打ちをかけてきた。
なんでも揃うと噂のあの店で買ってきた赤いコスチューム。サンタコス。それを持ってきやがった。
クリスマスだから女子高生がこれ着てれば売り上げあがるんじゃない？という安易な発想かららしい。
ちなみにオーナーの自腹。馬鹿だ。馬鹿すぎる。
断ったものの「実際に売り上げ上がったって過去に実績もある」だとか「特別手当つけるから」だとか押し切られて、ついに着てしまった。
…予想以上にキモい。
赤いポンチチョにミニスカワンピースとサンタ帽子。
下には私服のロンTとスキニーを履いているとはいえ、これは恥ずかしい。
今日はハコガク生来ませんように。
いや、今日はクリスマスイブだし、ハコガク生ってリア充多いし、みんなデートだよね。
大丈夫だよこないこない。 寮でパーティとかやってんだよ。
と、思ったら自動ドアが開いた。
いらっしゃいませーと笑顔を貼り付けたのち、崩れた。

「お前何やってンの？」
「あ、あはは…」

クラスメイトだった。隣の席の。
親しさでいうとクラスメイト以上友達未満くらい。
たまにノート見せる仲。荒北だ。最悪だ。
友達ならまだなんとかなった。
「私が働いてる時に楽しんでんじゃねえよ！」くらい言えた。
知らない奴なら無視した。のに。

「何その格好。サンタァ？」
「ご覧の通りです…」

荒北は商品も持たずにレジへやってきた。おでんは買うなよと念じたけれど、レジ周りの商品も買う様子はない。
何やってんだよ。コンビニは雑談場所じゃないんだよ。
上から下まで、やレジの台があるからお腹まで、じろりと見られる。
恥ずかしい。こいつ今すぐ追い出したい。

「ハッ！それで客引きしたら売り上げ上がるんじゃナァイ？」
「絶対しない。レジに引きこもる。ていうか荒北なんか買いなよていうかなにしに来たんだよ」
「東堂のヤツが寮でパーティおっ始めやがって、めんどくさいから逃げてきたんだヨ」
「はーっ！そっちは楽しそうでいいですね…はぁ…」

案の定パーティ。しかも東堂くん主催。
さぞかし楽しいのだろう。別に東堂ファンというわけではないけど、ちょっと羨ましい。
そりゃ、イブバイトからしたらなんでも羨ましいですわ。
あからさまに肩を落とすと、荒北は頭をワシワシ掻いてから商品陳列棚に行ってベプシとケーキを持ってきた。やっと買う気になったらしい。

「えー、会計329円になりまーすポイントカードはお持ちじゃないですよねーはいはい」
「真面目にやれ」
「はい400円お預かりしまーす71円のおかえしでーすありがとうございましたー。ていうか荒北ケーキ食べるの？」
「食わねえよ！察しろよ！」
「え？」
「お前にやるっつってんだよ！」

いや、そんなこと一言も言ってないしそんなそぶり見せてなかったじゃん？
袋からケーキを出すと荒北はベプシの入った袋を態度悪く掴んだ。
つーかベプシだけなら袋いらないじゃん！エコに貢献しろ！
ていうか今買われても食べられないし！
…中の冷蔵庫にいれよう。

「お前さァ」
「何」
「今日何時まで入ってんの」
「……１０時だけど」

今は７時半。１０時まではまだまだある。長い。長い。
荒北は聞くだけ聞いて黙り込んで、動かなかった。
一応お客様なのでとっととでていけとは言わない。
また頭をかくと、言った。

「じゃー１０時になったら迎えにくるから、メシいこ」
「は」
「…なんだよ」
「や、え、荒北、なんで？」
「煩ェヨお前察しろよボケナス！」
「察するって何が？！ていうか寮は？！１０時から出入り禁止でしょ！」
「抜け出すンだよ！つーかマジで分かれよ！めんどくせえ！」
「は、ちょっと荒北？！」
「その格好似合ってる！じゃあなまた後で！」
「あっ、まっ、ちょ、出れるのは１０時１５分くらいだからね！」

なんだ。なんなんだ。
呆気にとられた私をおいて荒北は店を出て行った。
自動ドアの音だけが残っている。
迎えに来る？メシ？ １０時ってお前。
いや、私もまだご飯食べてないけどさ。
適当にここでパスタでも買って食べようかなって思ってたけどさ。
１０時１５分って言った私も私だよ。
ていうかケーキ、あんたが買ってったのに晩飯一緒に食べるんじゃ、いつ食べればいいのよ。賞味期限は今日なのに。



131224