福ちゃんを通して知り合った名前チャンを好きになったのはいつだったか。
気がついたら惚れこんでて、思いを伝えたら自分も同じだと受け入れてくれた。
日を重ねるたびに好きになっていって、自分が自分じゃねェみたいになる。
バカらしいと思うくらいに、名前チャンが好きだった。

「でね、ここの水羊羹がさ」
「へぇ、ここは行ったことないな」

好きって感情はフワフワしたモンだけじゃないらしく、同時にドロドロしたモンも運んでくる。
現に今がそうで、いつもは愛しいと思う笑顔でさえ、新開に向けられると思うとグチャグチャにしてやりたいと思う。
グルメ雑誌を見て和菓子の話に花を咲かせる二人はオレのことなんか完全無視で、いなかったかのようになっている。
モチロン名前チャンにちょっかいを出せば構ってくれるンだろうけど、そんなことできるはずもない。
機嫌はそのまま右肩下がりどころか直角で下がっていくような感覚で、イライラだけが募っていく。
新開への言葉ばかり零すその口を塞いでやりたい。その目にオレだけを映して欲しい。
そう思うものの、やっぱりガラになく優しくしてやりてェと思う気持ちが邪魔をして、何もできない。
不機嫌さを隠そうともせずに誰かの机に座ったまま新開を見ると目があって、ヤツはフッと笑った。

「靖友、機嫌悪いな」
「わかってンなら話しかけんなボケナス」
「え、靖友くん」

振り返って、名前チャンがオレの顔を見る。
オレの機嫌が悪いのを今気づいたような顔をする名前チャンが愛しくて憎い。
何もわかってねェ名前チャンは眉を下げてオレに心配してみせる。
さっきまで新開と楽しそうにしてたのにそんな顔できるんだな、なんて自分の中の悪い感情が言った。

「…オレ福ちゃんとこ行ってくるわ」
「え」
「おー、いってらっしゃい」

新開は知ってか知らずか、いや確信犯だな。何もなかったようにオレを送り出す。
あからさまに様子がおかしいオレを普通に送り出す新開に、困惑した名前チャンはオレと新開を交互に見ていた。
教室から出ると椅子を引く音が聞こえて、小さな足音がする。
名前チャンがついてきたんだとわかって足を緩めそうになったが、そうはしなかった。

「まって靖友くん」
「…」
「まって!」

必死な声につい足を止めると、走ってきた名前チャンがオレの背中に顔をぶつけた。
転びそうになったところを腕を掴んで支える辺り、生ぬるいと感じる。
小さく礼を言う名前チャンの揺れた瞳に欲情した。
アァ、そういう目をみるとかわいがりたくなるのに、イジめたくもなる。

「何ィ?」
「あっ…えっと」

目を細めると、名前チャンは露骨に戸惑った。
追いかけてきたはいいものの、何を言えばいいのか迷っているように見える。
用がないならと進もうとするオレの腕を掴んで引き止める名前チャンにときめいて、また足を止めた。

「ごめん…なさい」
「それは何に対する謝罪なのォ?」
「いや、その…おこってるみたい、だったから」

ホラやっぱりわかってない。
オレが新開をどんな目で見てたかも、雑誌に夢中だった名前チャンは知らないんだろうなァ。

「何でオレが怒ってたかわかるか?」
「え…」

俯いて、オレの腕を掴んだまますこし考えたあと、名前チャンは口を開く。

「し、んかいくんと、仲良くしてたから…?」

上目遣いでそう言われちゃ堪んナかった。
ヤバいなと思いながら自分を静めて、できるだけ優しく名前チャンの髪に触れる。
黒檀のそれはオレのと感触が全く違って、女の子を感じさせた。

「ソ、わかってんじゃナイ」
「あの、でも、やっぱり、私新開くんとは、仲良くしたいから…」
「何でェ?」

男と喋ってるだけでもモヤモヤすんのに、なんで新開と。
オレはそう思っているのに、名前チャンはやけに照れた顔でもじもじしている。
そういう仕草もカワイイけど、オレが求めてンのはそうじゃない。

「あの、やっぱり靖友くんのお友達とは仲良くなりたくて。」
「は?」
「靖友くんのこと、福富くんからしか話きかなくて、全然知らないから、もっと教えてもらいたくて」

好きな食べ物とか聞いてたの。
そう小声で、俯いて握り締めた手を胸に抱いて言う。
まだ何か話していた気がするけど、そっからはもう覚えてネェ。
ただただ目の前のコイツが可愛くて、ガラにもなく赤面して、昼休みの廊下だってことも忘れて、つい抱きしめた。

「や、やすともくん?」
「アー…悪ィ」

チョットこの顔は名前チャンには見せられないかなァ。
顔が見えないくらい体を密着させて抱きしめる。
照れて歯切れの悪い笑い声を出すこのたった一人の女の子が可愛くて、幸せだなァとなんとなく思った。





しほ様リクエストの荒北で嫉妬する切甘夢です。
嫉妬って難しい…!
なんか全然切なくない。荒北さんがベタ甘い気がする。
求めていたものと違ったら申し訳ありません…。
ただ荒北さんに女の子って言わせたかった。
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