寒い寒い寮までの道を歩いていく。
隣の靖友は細い自転車を持っているけど、乗らずに押している。
一緒に帰ってくれるのはありがたいけど、その綺麗な緑とも青とも形容しがたい色の自転車のせいで、手を繋ぐことはできない。
ちょっと拗ねていることに靖友は気づいているだろうか。

「寒い」
「オー、寒ィ」

手が冷たいんだけどな。そういう意味も込めて、言ってみる。効果ナシ。
そりゃそうだ。軽いとはいえ自転車を片手で運ぶのは結構難しい。バランス感覚も力もいる。
何にも包まれていない自分の手をこすり合わせて息を吐きかけた。一時的に温まるものの、すぐに冷える。
はーはーしていると、靖友が突然足を止めて、靖友側の右手をとった。

「ン」
「…あったかい」

私の右手は靖友のブレザーのポケットの中。
空気から逃れるだけで、大分変わる。手をつなげない靖友なりの優しさかと思うと、手より胸が温まった。
もうすぐクリスマス。それから年越し。
流石に年末年始は寮も閉まってしまうので、実家に帰らなければならない。
靖友にしばらく会えないな。家には帰りたいけど、それはちょっといやだ。

「帰省だりィな」
「なんで?」
「妹がメンドクサイ」
「そうなの?私兄弟いないからわかんないや」

たしか二人いるんだっけなぁ。写真で見た、靖友ほど人相は悪くないのにどこか似ている二人を思い出す。
かわいい子だったな。会ってみたい。性格も、似てるんだろうか。
ていうか、靖友が妹にどんな感じで対応してるのかを見たい。
東堂とか、新開と同じ様なかんじかな。意外とかわいがってたりして。いいおにいちゃんぽいし。
想像すると、頬が緩んだ。

「名前の話したら食いついてきて、戻るたびに名前チャンはどうだああだってうるせェんだよ」
「え、知ってるの」
「マァネ」

写真見せたらかわいいって言ってたヨ。そうじゃない。なんで見せるんだ。
いや、私も妹ちゃんたちを見たからおあいこだけど。恥ずかしい。一応言ってほしかった。
中学生の女の子だから、そういう話がすきなんだろう。分かるけど、気恥ずかしい。
変なこと吹き込んでないよねと確認するとはぐらかされた。…絶対なにか言ってるな。

「いいなぁ、会いたい」
「ウチ来るゥ?」
「え、いいの」
「…余計なこと言わないならイイヨ」
「い、いわないよ」
「じゃあいい」

やった。靖友の実家。実家、実家。
お母さん、どんな人なんだろう。
お父さん、怖いのかな。
妹ちゃんたち。仲良くなれるといいな。
あきちゃん、一緒に遊びたい。
むずかゆい感覚。好きな人の家族に会うなんて緊張する。どんな服を着ればいいだろう。
まだ今年は10日あるのに、緊張してきた。

「どうしよう、ドキドキする」
「そんな緊張することないんじゃナァイ」
「だって、ご両親にご挨拶なんて」

大げさな言い方に靖友くんが噴出した。失礼な。

「じゃあ今年はオレんちで、来年は名前んち、な」
「え、くるの」
「当たり前ダロ」
「うー、片付けとく」

ウチのお母さんどんな顔するだろう。かっこいい彼氏連れてきて!なんてはしゃぐかな。
お父さんも、認めてくれるといいな。スポーツ好きだから、大丈夫かな。
靖友くんが自転車から片手を離して頭をガシガシかいて呟いた。「緊張するナ」

「ほら靖友も!」
「ウルセー」
「お互い様じゃん」

早く年末にならないかな。それと、来年にもなってほしい。
靖友の家族にも会いたいし、私の家族にも紹介したい。
冬の道が、寒くなくなった。







悠希様リクエストの、荒北でほの甘夢です。
ほのぼのしてますかね?糖度がちょっと少なくて申し訳ないです。
リクエストありがとうございました!


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