※いろいろ閲覧注意


「彼氏が」「彼氏の」「彼氏と」口をついて出てくるのは彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏、この子の話は全部彼氏だ。
つい先月付き合い始めたこのカップル。
私が半年間片想いしていた男友達と、1ヶ月と二週間前に私に擦り寄ってくるようになった、甘ったるい香水をふった女子で構成されたカップルだ。
男友達と私は、付き合わないにしてもそれなりに良好な関係を築いていた。
好き、と気づいたのは5ヶ月前で、それからそれなりに努力して服の趣味も変えてみたりした。
ちょっとくらい見てくれるかな、そう思ったけど全部無駄だった。
「××くんと仲良いよね?あたし××くん好きなんだ」そう言って近づいてきたのがこの女子。
正直好きなタイプではなかったし、今まで話すこともたまにしかなかったのにべったりされて心底イライラしていた。
なのにそいつはさも私の親友ですと言わんばかりに男友達に近づいて、ふくよかな胸を見せつけて、アピールして、私を出し抜いてその男友達をゲットした。
今更逃した魚に未練があるわけじゃない。
男友達とは今でもそれなりにやっているし、あいつも私のことを割と好いてくれてる。
ただ私はこの女の態度が気に入らなかった。
私がどんなに努力しても手に入らなかったそれを簡単に持っていった。それくらいなら私に魅力がなかったのだと納得できる。
でも女は私に追い打ちをかけるように惚気ばなしを振ってきた。
彼氏に貰ったブレスレット、一緒に食べたパフェの写メ、一緒に見た夜景、一緒に行った遊園地。
全部私に自慢しなきゃ気が済まないのか事細かに説明してきた。
名前も早く彼氏つくんなよ、そういう度に殺意が湧く。
人の目が強く出て突き放せない私も私だ。ダメな女だ。
この女は目移りが多かった。
私の好きだった人と付き合ってるのに、やれ誰がかっこいいだのなんだのとはしゃいでいる。
今のマイブームは自転車部の荒北で、二年の時少し仲がよかった。私が福富くんと同じ委員会に入っていたからだ。
次第に女の口からは彼氏よりも荒北の名前が出るようになった。
「荒北と目があった」「最近うちのクラスよく来るよね」「あたし結構見られてるきがする」
全部自意識過剰だ。荒北はお前みたいな女興味ない。そう言ってやりたかった。
練習中の荒北にニコニコ「がんばって!」なんて声をかけて舌打ちされたこともきっと気づいてない。バカなのだこの女は。

「あの女なんとかしてくんネェ?」そう相談されたのは、女が荒北の名前を口にし始めてから一ヶ月後だった。
練習中にチラチラ来てウゼェとか、ベタベタしてきてウゼェとか、あの女は私が愛した男を放って荒北に熱をあげていたらしかった。
むくむくと殺意が湧き上がる。
贅沢だ。こうしてすぐに恋人を捨ててきたんだ。
あの女へのイライラが頂点まで達すると、私は荒北に声を荒げた。
私だってあの女に迷惑してる、殺してやりたい、そうとも思っていると。
怒鳴り終えて肩で息をすると、荒北はけたけたと笑った。
「悪くない」にやりと危険な笑いでそう言う。

「名字チャンもあの女のコト嫌いならさァ、一泡吹かせナァイ?」
「ひと、あわ?」
「俺の知ってる名字チャンはやられっぱなしでほっとけるようなおりこうチャンじゃないケドォ」

当たり前だ、やられっぱなしじゃいられない。
私は荒北の手を取った。



具体的に復讐なんてどうするのか検討がつかなかったけれど、荒北は俺に任せてろと言った。
まずもうすぐある校内レースの応援にアノ女を誘い込む。
どうせレース後荒北に擦り寄ってくるから、その時にしてやる、らしい。
そう言った荒北の悪人ヅラが網膜に焼き付いている。
男を取られた腹いせに復讐する私もだけど、それに加担する荒北も性格が悪い。
だけど、そんな荒北は嫌いじゃなかった。



レースの日はすぐに来た。
1位は最後の直線で華麗に決めた新開くん、2位が荒北だった。
3位は東堂くんで、次のレースは山にしようと叫んでいる。
女の子ファンに囲まれる東堂くんを横目に、荒北を見た。

「荒北くん、おつかれさまぁ。かっこよかったよ。」

獲物が網にかかった。
にやり、と荒北が笑う。
私は指定された場所に立っていた。

「アー、あんがと」

そっけない返事をしたあと、渡されたタオルを突き返して荒北は私の方へ歩いてくる。
荒北を視線で追う女は自然に私を見つけて、目を見開いた。
荒北は私の手に自分の手を絡めて恋人のように振る舞うと部室の影になっている場所へ進んで行く。
女が恐る恐るついてくるのを確認してから荒北は立ち止まった。

「これでアイツには目当ての男が名字チャンにとられたみてぇに見えるワケ」
「なるほど」

で、この手はいつ離してくれるんだ。そういう意味で繋いだ方の手を胸の高さにあげた。
荒北はそれを無視するとある一点を見つめ、私にもわかるように視線をやる。
カサ、と部室の奥で、落ち葉が踏まれた音がする。
そこには隠れてはいるものの、あの女がいた。
気になってついてきたらしい。ああ、これはめんどくさい。
最初からわかっていたけれど、明日問い詰められるだろうな。

「名字チャンさぁ、アノ女がどこまでイったとか聞いたァ?」
「どこまでって」

荒北は繋いでいなかった方の手を私の腰に回して、誰かに見せつけるように絡めた手を持ち上げた。
「彼氏と手をつないだ」「キスをした」「お家に行った」「お泊りの約束をした」女の声が頭の中でリフレインする。

「こーいうことも、したんじゃナァイ?」
「え、」

荒北は私の首に顔を埋めるとすんと鼻を鳴らした。
そのあと舌で首筋をなぞられて鳥肌が立つ。
なにやってるの、そんなことは部室の影から顔を覗かせる女のちらりと見えた髪を見ると言えなくなってしまった。
何度も首筋を舐めたあと、鎖骨のあたりに舌は移動する。
鎖骨の盛り上がった部分を見つけるとそこにいくつも小さくキスを落とした。
荒北のことはは嫌いじゃない。嫌悪感はない。
けれど、こんなことをしたことはないしそんな仲じゃない。なのに気持ち良くてたまらなくなって、荒北のジャージを掴んだ。
腰が落ちそうになると荒北に支えられて、荒北は夢中になって私の首を舐めた。
腰を抱いていた腕が、スカートを伝ってシャツの入り口にたどり着く。
軽く撫でたあとそれはシャツの中に入ってきて、思わず腰が跳ねた。
その反応が気に入ったのか、荒北は耳元で笑う。
キャミソールの中にも入った手は直線背中を撫でた。
つつつと背筋をなぞって、鎖骨を吸われる。
立っていられなくなるくらい気持ちがいい。ただただ夢中で荒北に抱きついた。
荒北の足が私の太ももを割って間に入ってきて、押し付けられて、下着が肌に密着する。
下着の布が少し冷たくなっていることに気づいて、頬が熱くなるのを感じた。
耳元で「キモチイイ?」といやらしい声で囁かれてゾクゾクする。
気がついたら荒北の足にすりすりと体を寄せている自分がいた。
しちゃいけないとわかっているのに、恥ずかしいのにそれでも気持ち良くてやめられない。
荒北も膝を折って、間に入った足に体重がかかるようにする。
気持ち良くなって、なんでこんなことをしてるのがわからなくなる。
こんなことしちゃダメなのに、ダメなのに。
部室の影の女が走り去って行ったことにも気付かずに、私たちは互いを求め合った。





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