私のこと好き?

私のどこが好きなの?


そんな面倒なことを聞く女にはなりたくないな、と恋愛ドラマを見て幼心ながらに思ったことがある。
付き合ってるんだから好きあってるんじゃないか、それでいいじゃないか。
12歳の頃の私は若く、素直だった。ピュアだった。ませてた割には人を疑うことを知らなかった。
叶うなら、当時の純粋さを取り戻したい。そうすれば、もっと彼に対して素直になれるのだろうか。


目の前で黙々と購買のパンを食べる彼氏、靖友の目つきは鋭かった。これはいつもと変わらない。
この手の男と付き合う時、(勿論、靖友以外の男と交際経験のない私なので漫画で得た知識だが)『鋭く尖ったナイフのような彼だけど、私だけは彼の心がわかる。彼の本当の優しさを知っている』と、彼女は言うべきなのだろう。

実際、昨晩見たドラマではそうだったし、普段はクールな彼も彼女に対してだけは、特別な表情を見せていた。これに関しては、俳優の演技に息を飲んだ。
だが実際はそんなこともない。少なくとも私を例にとると、だ。

ドラマの男前に負けず劣らず格好良くて、鋭く尖った彼の彼女になって幾ヶ月。
割と長持ちしている方だと思うし、周りからも認知され祝福されていると思う。
それでも私は尖った彼の扱い方を未だに心得ていないし、長年連れ添った夫婦のように彼の荒々しさを認めることもできない。
もちろん付き合っているからには彼のよさは理解しているし、尖ったナイフのようだと何度も言うが不器用な優しさがあることも知っている。私は彼のそういう部分が好きだ。

でもこれは彼女だからというわけではなく、彼のチームメイトだって同じこと。
もっと言えば、私が持っている彼の情報知識の殆どはおしゃべりなチームメイトから得たものだった。
毎日を一緒に過ごし、共に切磋琢磨し、合宿で一晩を過ごしたこともある。頼もしい仲間たちだ。彼女よりも親しい。素敵じゃないか。
念のために言っておくと、今更それに妬くつもりはない。
仲間たちは素敵だし、やはり私たちを祝福してくれる。
時には素敵な支援もしてくれるし、何かあれば力になってくれる。
私が靖友と交際することになったきっかけの一つでもある。
私たちにとって、彼らは掛け替えのない人だ。


…前置きが長くなった。
物事を長ったらしく並べたてるのは得意じゃない。
結論から言うと、私は彼の、靖友の彼女でいることに不安を覚えていた。

デートは片手で数えられるくらいしかしたことがない。部活で忙しい彼のことだからそれは付き合う前から承知の上。
スキンシップは多くないものの、大事なシーンではきちんと触れてくれる。交わったことはないものの、彼は私の唇に数え切れない程のキスを落としてくれた。
好きという言葉を聞いたのは、告白の時だけだった気がする。いや、告白の時も聞いていない。確か彼は、付き合って欲しいとだけ言った気がする。もしかしたら、付き合ってはいるけれど私のことは好きじゃなかったのかもしれない。


嫌なことばかり考えてしまった。
はっとして、靖友を見るとパンを食べる手が止まって私のことをじっと見ていた。
どうやら結構な時間、私は考え込んでいたらしい。
大丈夫かヨと顔を覗き込む彼に無心で頷いた。
なんだかんだで、こういうところが好きなんだ。

ちょっと考え事してたの。なんでもないよと微笑むと、顔が近づいた。
距離がゼロになる。キスは1週間ぶりだった。


「なんかして欲しそうなカオしてたけど、違ったァ?」


どうやら私は勘違いをしていたらしい。
ドラマの尖ったナイフの男は私で、それを理解してくれていたのは靖友、彼だった。



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