なんとなく、大学の中の食堂に寄った時だった。
学生で溢れかえり賑やかなそこで、一人の女性につい目がいった。
それは周りが霞むほど美人だからというわけではなくて、俺のよく知る人間だったから、というのが理由。実際鬼美人なんスけど!
あの金剛兄弟の幼馴染で、高校の時もよく神龍寺に差し入れしにきてくれていた名前さん。
女慣れしていない男子校の俺たちにも優しくて、誰もが憧れるような人だ。
…まぁ、憧れただけで何かしようとしたなら速攻で阿含さんに潰される訳だから、何もできなかったんスけど…。
そんな彼女は最京アメフト部のメンバーによく馴染んでいて、彼女が男と一緒にいるところは別段珍しいことじゃない。
でも、大抵は俺の知ってる人と一緒にいるから、俺が見たことない色のくすんだ金髪の男と一緒にいるのは少し意外だった。
距離があるので会話は聞こえないが、身振り手振りや雰囲気からして、男が何かに誘って名前さんがやんわり断っているように見える。
名前さん、やっぱモテるんだな…とショックを受ける反面、もしかして彼女は困っているんじゃ?という考えに思い至った。
よくある迷惑なナンパみたいなもので、本当は誘いを受けたくないのにはっきり断れなくて困ってるんじゃ…。
だとしたら助けてあげたい。でも、そうじゃなかったら迷惑かもしれない。
仮にも鍛えてるから、あの金髪に逆上されたとこで逃げ切る自信はあるっスけど…。
と、ぐるぐる考えながら名前さんを見ていると、ばちっと目があった。
完全に困った顔をしてる。これはもう迷惑かもとか考えてる場合じゃないな、と俺は名前さんの方へ足を向けた。
金髪も俺に気づいたらしく、なんだこいつ、というような目で睨んできた。
身長は180くらいあると思う。でもまぁ、それよりデカい奴なんてアメフトで何回も見てきたし、そいつらにタックルされたこともある俺からしちゃ、こんなの子供のぐるぐるパンチみたいなもんっスよ。
俺より背の高い金髪の肩を掴んで、名前さんから少し離す。
かっこいいところを見せなくちゃ、と口を開いた途端に、腕に力が込められた。
斜め下をみると、自分の腕にはそれと比べ物にならないくらい細くて白い腕が巻きついている。
状況理解もできないまま、俺は赤面した。え、これ、もしかして名前さんが俺と腕組んで…

「ごめんね、白井くん。私彼氏いるから。いこ、一休」
「そそそそうっすね!!」

どういうことだこれ?混乱したまま名前さんに連れられ食堂を出る。
ある程度遠ざかるとぱっと腕を話して、名前さんはにっこり笑顔で俺に向き直った。

「ありがとう細川くん!助かった!」
「いや、俺は何も…」
「あの人しつこくてさ、遠回しに言っても気づかないし、阿含に言っても大事になるしで困ってたんだ。だから細川くんが来てくれてすごく助かった!あっ、腕ごめんね。」
「いいいいいや全然いいっすよ!!!むしろ嬉しいっていうかなんていうかとにかく名前さんのお役に立てて光栄っすから!!!」
「また今度お礼するね!あっごめん私次授業なの!それじゃまた連絡するから!じゃあね!」

と、言葉を残して名前さんは足早に廊下を駆けていった。
やっべー、名前さんと腕組んじゃった。まだドキドキする…。
心臓が鬼煩い。っていうか鬼いい匂いしたんすけど!

「これ阿含さんにばれたら殺されるよなぁ…」
「何がばれたらって?」

後ろから少しだけ普段より上機嫌な声が聞こえる。
油の足りないブリキ人形のような動きで振り返ると、サングラス越しに怖いくらいの笑顔を携えた阿含さんがいた。

「さっきのこと、説明してもらうぞ?一休」


ジ・エンド・オブ・俺!



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