オレは幽霊が見える。守護霊悪霊地縛霊その他諸々何でも見える。前に透明人間になっていた斉木さんのことも見えたし、もしかしたら普通の人には見えない者なら何でも見えるのかもしれないけど、その辺りはややこしいので今回は触れないでいきたい。そんなワケで幽霊が見えるんだけど、これにも欠点がある。それは見えすぎて普通の人間と区別がつかないってこと。触れたら分かるけど、逆に言えば触れなきゃ普通の人間だか幽霊かわからない。足が透けてるとかならありがたいんだけど、そんな漫画みたいなことはなく、普通の人間に見える。だから念のため転校してきて一週間以内にそれとなくクラスメイトに全員に触れて『今見えている中で』幽霊がいないかどうかを確認した(女子に触るのは下心も兼ねてだけど)。で、その上で何人か知らないヤツが教室にいる時はそいつらを幽霊だって判断してるんだけど、今日はその必要のないくらいわかりやすい幽霊に会った。どうやらそいつはクラスメイトの名字さんに憑いてるようだ。オレは悪霊に憑かれたことがないのでわからないけど、悪霊が取り憑くと体が重く感じるらしい。特定の部位に憑いてる場合はそこだけが頻繁に痛んだり違和感を感じたりもするとかなんとか。そして現に名字さんはいま首を何度も左右に曲げてるし、表情も何処か暗い。疲れてる時の症状に似てるけど、残念それは憑かれてるんッスよ。なんちゃって。冗談は置いといて、目の前で悪霊に取り憑かれてる人を見てほっとくなんて出来ない。男ならどうでもいいけど、名字さん結構カワイイし割とタイプだし、この間教科書見せてくれたし、助けてあげることにする。数学の授業が終わったあと、オレは名字さんに話しかけた。次の授業も教室だから、10分かりても大丈夫だと思う。

「ちょっと名字さん、いいっスか?」
「うん、いいけど…なに?」
「ここじゃできない話なんで…こっちに」

流石にこんな人のいる前で悪霊の話はしたくない。オレが幽霊見えることはクラスメイトだけじゃなくて別のクラスにまで知れ渡ってるらしいからいいけど、憑いてる側からしたらよくないこともある。大体悪霊が憑くってのなは理由があって、単純に気持ちが弱ってたから生気を吸いにきたとか、触れちゃいけないような場所に立ち入って罰として憑いたとか、何かしたときの誰かの生き霊とか人によって様々だ。気持ちが弱ってることが理由ならいいけど、もし名字さんが悪いことをして憑かれたとか、知られたくないことをした憑かれたのならここで話すべきじゃない。そう思ったからだ。
名字さんを連れてオレは人気の少ない非常階段前に来た。ここなら廊下にいても覗き込まなきゃ見えないし、角になってるから話も聞こえづらいはず。ていうかそこまで親しくない男子に連れられてこんなところにホイホイ来るなんて名字さん警戒心なさすぎ。と思ったけど、今はこの状況をオイシイと思ってる場合じゃない。刺激しないようにここまで幽霊には触れないで来たけど、どうやら名字さんには結構ヤバイヤツが憑いてるようだった。

「名字さん、オレのこと知ってるよね。」
「うん?鳥束くんだよね?」
「そうじゃなくて、」

幽霊が見えるってコト。そういうと名字さんの背後のヤツは眼に見えて動揺して、名字さんはそういえばと今思い出したような顔をした。幽霊の反応から一応悪いコトをしてる自覚はあるらしい。除霊とかは出来ないけど、それなら説得でなんとか名字さんから離れてもらえるかもしれない。今度は名字さんじゃなく、名字さんの背後のヤツに話しかける。

「何の目的で名字さんに憑いてるんスか?あんまり幽霊には干渉したくなかったけど、明らかに悪霊なんで手を出さずにはいられないんッスよ。」
『お前には関係ないだろ!』
「関係ないって言われてもクラスメイトだし、こんなカワイイ子のことほっとけないっス。適当に退かないと実力行使するっスよ。」

と、わざと悪い顔をして言ってみる。実力行使なんて言ったけど、もちろんそんなこと出来るワケがない。でもこれで怯んでくれたなら儲け物ってことだ。名字さんは悪霊がいることを今知ったらしくどこか怯えている。強く幽霊を睨みつけると少し警戒した。オレにそういった力がないことには気づいていないらしい。これなら強気でいけば…。

『なっ、何が実力行使だ!お前に何が出来る!お前になんて言われようと俺はここから離れないからな!それで女子高生の着替えから入浴シーンを眺めるだけじゃなく…』
「なっ、うらやま…じゃなくて!そういう目的なんっスか!」
『当たり前だろ!男を知らない処女の身体を知られないうちに舐め回すなんて男の夢だろ!』
「ひっ」
「っ…面倒で気持ち悪い悪霊っスね…」

幽霊が名字さんの顔の輪郭から首筋を撫で上げた。目には見えなくても感覚は伝わるようで、名字さんが小さく悲鳴を上げる。どうやら幽霊は身体目的というか、たまにいる性欲の化身のような幽霊だった。エロマンガに出てくるみたいな幽霊だけど、童貞のまま死んでいった人間が未練を残してこの世界に留まり悪霊化することはよくあるから驚くほどのものじゃない。コレの女版がいたら…なんて中学時代は考えてたけどもしそんなのがいても恐らく見た目がコイツみたいに醜悪だとおもう。それに幽霊で童貞卒業は嫌だ。オレも生身の可愛い女の子で卒業したい。だからコイツの気持ちはよく分かるしオレも名字さんの着替えから入浴シーンは気になるけどやっぱりほっとけないし、コイツみたいなのだけ見てるのはずるい。オレも見たい。いやそうじゃなくて、話がズレてきた。確かコイツは名字さんのことを男を知らない、とか言ってた。処女にこだわりがあるタイプの幽霊だから男と付き合ったことがない名字さんに憑いたのだと思う。だったら解決方法はある。名字さんはちょっと嫌かもしれないけど、幽霊はとれるしオレは嬉しいし一石二鳥だ。

「ゴメン名字さん!」
「えっ」
『なんっ…?!』

素早く名字さんの肩を抱き寄せて口付けた。ゴメン名字さん、ファーストキスいただきます!初めて触れた女の子の唇は柔らかくて、罪悪感があるものの気持ちが良かった。すぐに離れると幽霊は案の定ワナワナと震えている。作戦成功みたいだ。

「残念、お前の大好きな男を知らない名字さんはもういないっスよ」
『く、くそ…』

足元から風化するように幽霊は消えていく。どこかへ去ったらしい。気配は、ない。肩を支えたままだった名字さんはアイツが居なくなると力が抜けたようにオレにもたれかかってきた。役得、なんて呑気なことは言ってられない。勝手にファーストキス奪うなんて、ビンタじゃ済まないかもしれない。少し警戒しながら声をかけようとするが、その前に名字さんの顔が上がって、目が合った。頬だけでなく耳まで真っ赤になっていて、目は少し潤んでいる。わかって貰えると思うけど女の子のそーいう表情ってホントヤバイ。正直欲情した。すごいエロい。だけど今この状況で流石にそれを出すわけにはいかなくて、顔のにやけを抑えて平然を装った。

「あの、鳥束くん…。」
「えっ、その、マジスイマセン!変なつもりじゃなくって、オレ、ごちそうさま…じゃなくて!」
「悪霊、もうどっかいった?」
「そりゃ当然!オレにかかればあれくらい…」
「そっか」

まだ涙が潤む瞳で名字さんはにっこり笑った。チャイムをバックミュージックに「ありがとう、今度改めてお礼するね」といって頬の赤みも引かないうちに廊下を走って教室に帰っていく。オレも同じクラスだから同じとこ行かなきゃいけないはずなのに、体が動かなくて呆然とそこに立ち尽くしていた。唇が、熱い。




翌日、目撃者がいたせいでオレと名字さんの関係が噂されたのはまた別の話。






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