13歳のとき、おまえの兄の兄弟子だとややこしい肩書きを引っ提げて現れた男に恋をした。日に翳せば透けるような金髪に優しい笑顔、いつもはしっかりしている癖に部下が居ないと点でダメなところ。彼のすべてが大好きだった。14歳になった日、私は彼に告白した。結果は玉砕。撃沈。兎に角フられた。好きです、と頬を染めて見上げた私に彼は困った顔をして頭を撫でて曖昧に微笑むだけだった。その目は兄が私を見る目とよく似ていて、ああ私はおんなとしてすら見られていなかったんだなと痛感した。最後にこのことは兄に内緒にしてくださいと言うと、わかったとまた優しく微笑んだ。



あれから2年が経つ。私の兄は相変わらずゴタゴタいろんなことに巻き込まれているようで、時々とんでもなく疲れたような顔をして帰ってきたり、指輪を増やしたり、傷だらけになって帰ってきたりした。それでも私がおかえり、と言えば優しい顔でただいまと返してくれるのだ。いつかのディーノさんと同じような顔で。その顔を見るたびに私は兄の優しさを身に感じて、子供な私が嫌になった。

そんな私ももう高校生だ。彼氏は出来たし、キスもした。エッチはまだ怖いからしてないけど、高校生らしい付き合い方をしている。…いや、していた。数ヶ月前に出来た彼氏とは数週間前に別れてしまっていた。これでこういうことは三回目になる。彼氏とうまくいかないというわけではなくて、時々どうしてもディーノさんのことを思い出して仕方なくなるのだ。私が高校生になってからも時々うちを訪れる彼に想いを馳せ、恋い焦がれてしまう。前に来たときは彼氏がいたから必要以上に近づかなかったけど、やっぱり遠目に見るディーノさんは眩しかった。できることなら、隣に立ちたかった。でも10歳近く年の離れた私じゃそれは叶わない。それでも、どうしようもなく好きになる。そう思ってしまえばもう遅くて、気がつかないうちに私は彼氏に別れようとメールを送ってしまうのだ。別れたと報告する度にお兄ちゃんは人には相性があるらしいしね、なんて特に責めずに笑ってくれる。お兄ちゃんも京子さんとうまくいくといいね、なんて言うと照れて真っ赤になって目に見えて動揺するのが面白くて、そんな優しい兄が大好きだった。


そんなある日、学校から帰ると家の前には黒いスーツの男たちがぞろぞろと集まっていた。最初こそ驚いたもののそれにももう慣れたもので、こんにちはと挨拶しながら開けられた道を進んでいく。母さんは買い物に出かけているのか、一階は静かだった。家に帰って兄の部屋のドアを開ければ、やっぱりそこには彼が…いなかった。それどころか兄もいない。
あれ?おかしいな、大体ディーノさんがここに来るときはお兄ちゃんかリボーンちゃんに用事があるから、ここにいるはずなのに。首を傾げて兄の部屋を出て、まあいいやと自室のドアを開ける。と、同時に閉めた。ドアの向こうからおい!という声がする。もう一度開けるとやっぱりそこには私のベッドに座るディーノさんがいた。

「ディディディディーノさんなんでここに」
「そんなすぐ閉めることないだろ…」
「すみません、びっくりして、あの」
「まあ入れって」

ディーノさんに手で促されて部屋に入ってスクールバッグを置いた。あれ?ここ私の部屋のはずなのに。違和感を感じながら、勉強机の椅子を引いてそこに座った。するとディーノさんがこっちに座れよ、と自分の隣のベッドをぽんぽんと叩く。いや、その、無理です。そんな近くに座るなんて。心臓持ちません。首を横に振ると「それなら力ずくで」と立ち上がった。私は今までしたことないような動きでベッドに移動した。力ずくで、なんて、何をされるんだ。ディーノさんのことだから暴力的なことをしないとわかっていても、違う意味で恐ろしい。ドキドキ的な意味で。それなら隣に座った方がマシだ。おとなしく座った私を見て、ディーノさんは優しい笑みを浮かべた。いつもと変わらないその笑顔が私は大好きで、少し嫌いだった。私を見る目はきっと昔と変わっていない。それが嫌だった。

「あの、それより…今日、どうかしたんですか。」
「ん?ああ、そうだな。」
「お兄ちゃんに用事あったんじゃないんですか?多分お兄ちゃんもリボーンちゃんも学校ですよ。」
「いや…今日は違うんだ。用事があるのはツナでもリボーンでもなくてな。」

じゃあ誰?頭にはてなをいっぱい浮かべて首を傾げるとディーノさんは苦笑した。なんで俺がここで待ってたかわかんないか?と言われて頬に熱が集まる。もしかして、なんて期待をしてしまって。

「今日はお前に用事があってな」
「…わたしに」
「そう。まあなんだ、ちゃんと聞いてくれ。」

いつもディーノさんの話はちゃんと聞いてますよ、一文字一文字聞き逃さずに。なんて恥ずかしくて言えるわけがない。こう改めて言われると、なんだか気恥ずかしくなる。頬の赤みを窓から差し込む夕日のせいにして私はディーノさんの言葉を待った。

「2年前、俺に告白してくれたよな。」
「…はい。」

その話か、と気持ちが沈んだ。あの時のことは私の中で思い出したくないことナンバーワンであり他人に知られたくないことナンバーワンだった。こんな年上の、かっこいいお兄さんに告白して私みたいな子供が相手にされるわけないのに。あの日のことを思い出すたび世界からそう言われている気がして、ディーノさんを愛しいと思ってもこのことだけは思い出したくなかった。少しうつむいた私を知ってか知らずか、ディーノさんは言葉を続ける。

「あれ、すごい嬉しかった。」
「でも」
「あの時は悪い。お前のことを子供だって、甘く見てた。バカにしてたって言われても仕方ないよな。」
「…そんな、つもりじゃ」
「俺だって色々考えたんだ。だから、改めて言わせて欲しい。」

ごくり、と喉がなった。ディーノさんの真剣な瞳に捉えられて、逃げられなくなった。膝の上で握った拳が震える。緊張感にやられて、目から雫が零れるのを必死に耐える。

「好きだ。俺と、結婚して欲しい。」

ポケットから取り出された小箱がなんなのか、わからないほど私は子供じゃない。2年前にふったのは貴方じゃないですか、なんて言いたくても言えなかった。必死に堪えていたはずの涙は決壊してぼろぼろと零れ出す。ディーノさんはそれを指で優しく拭ってくれた。

「なんで、」
「あの時俺が22でお前が14だったよな。」
「そう、ですけど」
「だから待ってたんだ。お前が16になるまでな。」

イタリアでは14で結婚できるんだけどなあ、ってハハハって笑うディーノさんがおかしくて、涙は止まらないのに口元が緩んだ。なんにしたっておかしすぎる。だって、二年前にフった子供にプロポーズなんて。私たち付き合ってすらないのに。もし私に彼氏がいたらどうしたんだろう。それより、好きならフらないで隣に置いてくれればよかったのに。いろんなことが言いたくなったけど、ディーノさんに抱きしめられて何も言えなくなってしまった。彼の背中に腕を回して胸に顔を埋めて、好きですと小さい声で言えば耳のすぐそこで俺も好きだと返って来る。ああ、私は今世界中の誰より幸せだ!





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