とにかく、その日はイライラして仕方なかったのだ。
バカ上司は朝から無理難題と面倒なデスクワークを押し付てきて本人はさっさと出かけてしまうし、おやつにと冷蔵庫にいれておいたジェラートは犬にぺろりと食べられてしまうし、書類を届けに雲の守護者に会いに行けばたたみですっ転んで鼻を強打しその上煩いと雲の守護者から絶対零度の視線を浴びせられるし、夜一緒に夕飯を食べる約束をしていた同業者の友人は彼氏に久々の暇ができたからとそちらを優先してしまうし。
書類で指を切ったり万年筆で指を突いたりとそういう細かいことを含めたらもっともっとツイてないことはある。
とにかく、とにかくとんでもない日だった。
こんな日は飲むに限る!幸い明日は休みをとってあるし、元から友人と飲むつもりだったのだから別にいいだろう。こんな日くらい。
上司に押し付けられた一日で終わるわけのない量の仕事を適当に切り上げて、私は夜の街へと繰り出した。
イタリアで夜に女の子が一人歩きなんて自殺行為だが、それはか弱い女性の話。これでも守護者には及ばないながらもボンゴレではなかなかの戦闘力を持っていると自負しているのだ。酔っ払いや身売り目的の男なんてちょちょいのちょい。適当に声をかけてくる男共を流しながら、目当ての酒屋で一杯。顔見知りになったマスターは荒れてるねえなんて苦笑して、私のカクテルにチェリーを浮かべた。

「全く、あんのクソ上司…。」
「隣、いいですか?」
「えっ…どうぞ」

無意識に慣れ親しんで聞くことも減ってしまった母国語で愚痴っていると、その母国語で声をかけられた。
視線を声の方へ向けると、黒髪の綺麗なアジア系の男性が居る。イタリアで日本語を聞くなんて、ボンゴレ以外じゃ初めてだ。
適当に自己紹介、といってもマフィアだと言うわけにもいかないので適当な会社の出張に来ているという設定にして、日本語なんて珍しいと世間話を楽しんだ。
相手も僕も久しぶりに聞きました、なんてにっこり綺麗な笑顔を浮かべる。結構顔が好みだ、なんて酔いが回った頭でぼんやり考えた。
そこからの流れはお察しの通り。
日本人といえどもイタリアで揉まれた男、エスコートも完璧で、私もこのひとならいいかなあなんて警戒心の薄さでホイホイついて行って、目覚めた頃には知らない天井。あぁ、やっちゃった。いや、ヤっちゃった。服を着ていないのは確認するまでもない。久々に訪れた事後の気だるさに身を預け、天井をしばらく眺めたのち、おそらくまだ寝ているであろう隣にいる日本人男に目を向けた。
はずだった。

「っ?!!?!」

つい、飛び起きた。
シーツを胸に抱いて上半身を起こしたため、男の胸元が露わになる。いやあ、綺麗な肌だ、なんて言ってる場合じゃない。昨日愚痴と酒に付き合ってもらい夜を共にした黒髪のイケメンくんが、なぜか憎きバカ上司に変わっていたのだ。

「…朝から騒がしいですね」
「っな、なん…なんで…あん…た…え…なん…」
「なんでなんて酷いですね。誘ったらついてきたのは君でしょう。全く、同じ日本人だからって酔った勢いでついていくのはどうかと思いますよ。」
「なんで骸さんが…いるんですか…。」
「なんでって昨日から一緒にいるでしょう。」
「え、黒髪のイケメンは」
「あれ、僕ですよ。酷いですねえ、散々僕の愚痴を聞かせてきたじゃないですか。」

クフフ、と耳に残る笑い声を聞いて、私の思考はショートした。どういうこと?黒髪のイケメン=骸さん?そりゃ骸さんくらいの術師なら見た目を変えるくらい朝飯前だろうけど、どうして。

「酒場で偶然君を見かけましてね。やけに荒れているようでしたので姿を変えて近づいてみればこれですよ。」
「ええ…」
「君は男に対しての警戒心が薄すぎる。しっかりしてくださいね、僕の部下なんですから。」
「は、はあ…」

「あ、それと」


昨晩は大変良かったですよ、またよろしくお願いしますね。
なーんて言ってのけるアホ上司に私は枕元の時計を投げつけた。





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