「すっごく苦しそうな顔だな」

ぐえ、と蛙が潰れた声が出た。
それでもなお腹を踏む足の動きは止まらず、寧ろそれを受けてもっと強く、抉る様に力がかかった。

「い゛っ…」
「喋るなよ」

胃液か唾液か、何度も流れて区別がつかなくなった液体がまた口から零れた。
本来私が寝ることが出来ないようなベッドにかかったその如何にも高級そうなシーツは私の体液で汚れていく。
これで何度目だろう。
広がった液体は、端の一部が乾いている。

「っごめん…なさ…い…っ」
「『ごめんなさい』?どうしてそんなことを言うんだい」
「ごめ…なさっ…!」
「この僕がさァ、直々に踏んであげてるんだから、もっと喜ぶべきだよ。ホラ、笑って」

腹に体重をかけたまま、領主様は体をこちらに倒して、私にぐっと顔を近づけた。
両手の人差し指を私の咥内に突っ込んで、ぐいと横へ広げる。笑って笑って、と彼は薄ら笑いを浮かべるが、とてもじゃないが笑えない。
前かがみになったことで腹にはさっきとは比べ物にならないような重みがかかるし、広げられた口も避けそうだ。
いひゃい、とうまく発音できないまま言っても、彼には聞こえていない。
そうしているうちにも、また体の奥から液体が迫り上がってくる。
何度も繰り返す嘔吐に私の胃の中はからっぽ。
元からたいしたものを食べていないお陰で、吐くものは何も無い。

「ああ、また吐いた」

汚いなァ、さもそういう風に彼は言葉を吐く。
またシーツを汚してしまった。
冷めた目で私の輪郭を伝う液体を見落ろす。
ひんやりとしたその視線に、体の芯が冷えた。ゾクリ、鳥肌がたつ。
何度もそうされて、体は十分熱いはずなのに。
透明の液体でぐしゃぐしゃになった顔で領主様を見上げると、自分の手をご覧になっていた。
私の体液で汚れた人差し指。照明がそこだけをてらてらと光らせる。
腹の重みがすっとなくなり、ひゅうと一つ大きく息を吸った。
圧迫されていた肺も胃も、ようやく面積を取り戻したように感じる。

そう息をついたのも束の間、顎を乱暴に掴まれ、即座にベッドに押し付けられた。
柔らかいベッドに押し付けられても痛くない、けど、急なことで首がついてこない。
骨が軋んだ音がしたような気がして、目を薄めた。

「これ、汚れてるから舐めてね。」

領主様が私の目の前に差し出したのは塗れた右手の指。
返事する暇もなく喉の奥へ押し込まれ、これ以上ない嘔吐感が襲う。
中身は空っぽで、吐くことができない。その上、指は抜かれる気配がない。
終わりの無い息苦しさに私は喘いだ。いい声じゃないか、領主様が褒めてくれた。
しばらくして漸く抜かれた指。
汚れてるから、なんて言って押し込まれたはずなのに、唾液と胃液で余計に塗れている。
汚いのに、汚い私のなのに、領主様はそれを自分で舐めた。汚いのに、汚いのに。

「いい声をあげるね君」
「っぁ、りが…っ」
「うん、いいよ」

喉の圧迫感が未だ薄れず、うまく話せない。
息が苦しい。酸素が足りない。上手に吸えなくて、変な音が喉から鳴る。
ぐったりした私の足を領主様は綺麗な手で持ち上げて、膝が私の胸に当たるまで押し込んだ。
奴隷だから、下着をつけてないそこが領主様に露になる。
いやだ、恥ずかしいです、口に出そうとしても音が出ない。

「嬉しい?この僕の相手が出来て」

言葉が出ないので、首を振った。
嬉しいって言わなきゃ、両足を持ち上げたまま、領主様は言う。

「いい声の君にごほうびだよ。」

手が首にひゅっと伸びてきて、ぎゅっと締まった。
息が、できない。天井の明るさと太ももを伝う綺麗な指を感じながら、私は意識を失った。






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120911


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