今日も今日とてお勉強。
教え始めて数日だが、ココに毎日来ていたせいか以前からの癖のように感じられる。
それだけ彼女の横という場所の居心地がいいのか。

PM6時。
窓の外には帰り始めるテニス部員。
もうこんな時間かのう。
6時間目に授業が終わって4時から勉強をはじめたとして、学校が締まるギリギリまで勉強していたとしても2時間しかできない。
きっと家でも勉強しているんだろうけど、この彼女が1人で数学を勉強できるとは到底思えない。
苗字さんも、問題にキリがついたのかぱたん、とワークを閉じた。


「なぁ苗字さん」
「ん?」
「苗字さんとこの門限て何時じゃ?」


筆箱や教科書類をスクールバックに仕舞う苗字さんに問いかける。
もしも遅くまでいけるんじゃったら、ウチで勉強すればええ、そう思ったんじゃ。

テニス部の奴らにも柳生以外2年まで家教えんかった(ちゅうても家に呼ぶ機会がなかっただけなんじゃけど)のに、こうもあっさり教え

るとは。まだ教えとらんけど。
なんじゃろ、苗字さんには不思議な魔力があるんやのう。


「ウチ門限ないよー。一人暮らしだし」
「ほうか…じゃあウチ来んか?」
「えっいいの!」
「ええぜよ。」
「家族の方に迷惑じゃないかな!?」
「構わんじゃろ、あいつら苗字さんみたいな人好きじゃし」
「じゃあお邪魔する!」
「ん、じゃあ連絡入れとくき、帰る用意しんしゃい」


苗字さんが帰る用意をしている間に、携帯を開いてメールを新規作成する。

『今日友達ウチにつれてく』

一行だけ送るとすぐに『わかった♪』と無駄な記号つきのメールが帰ってきた。
その頃には苗字さんも帰る準備万端だったので、2人して図書室を出る。
図書室の鍵をかけるのも、もう図書委員ではなく俺達の仕事になっていた。














「ただいまー」
「お邪魔します」


ガチャ、とウチのドアを開ける。
と、姉貴が両腕を広げて待っていた。


「…なんじゃ」
「なんじゃ、じゃないでしょー」
「こ、こんばんは」
「あっ!雅治の彼女さん!?」
「えっ」
「は!?」
「え?」


なんじゃ、このアホ女…。


「ちっチガイマス!!!」
「あ、そう?」


苗字さんもそんな必死に否定せんでも…。
そこまで言われたら流石の俺も傷つくぜよ


「なんだぁー雅治が女の子連れてくるのなんて初めてだから彼女かと思ってたのに!」

がっくし、と姉貴は大げさに肩を落として言う。
いかん、コイツの相手しとったらいつまでたっても勉強できん。


「苗字さん、部屋あがるぜよ」
「う、うん。お邪魔しまーす…」


二回目になるお邪魔しますを言って苗字さんはうちへ上がる。
俺が脱ぎ捨てた靴を自分の靴と一緒にそろえているのを見て、感心した。
真面目なんやのう。


「お母さんは?」
「仕事。父親もずっと会社にこもりっきりじゃから基本的には三人暮らしぜよ」
「三人?」
「さっきの姉貴と、下に弟がおる。まだ公園かどっかで遊んどるじゃろ」


とんとん、と規則的に階段を上がり、苗字さんがそれについてくる。
そういえば家族の話をテニス部以外の奴にしたのも初めてじゃのう。
テニス部以外を家にあげたのもはじめてじゃし、苗字さんは初めてづくしじゃ。

数歩廊下を歩いて小学生の頃に父親が作った『まさはる』のプレートがかけてあるドアをあける。
それを見た苗字さんが心なしかにこにこしていた。


「なにわらっとるん」
「いやだって、仁王くん学校では超クールで無口みたいなかんじじゃんか」
「別にそうでもないじゃろ。今は毎日しゃべっとるし」
「うんそうなんだけどさ、なんかひらがなでまさはるって書いてるのみたらかわいくて…」


くすくす笑っているのを見ていると嫌な訳やなかったけどなんだか気恥ずかしくなってきて、無理矢理に勉強を始めさせた。
こうして勉強を教え始めた頃からすれば多少は得意になったのか、細かいミスも減ってきた。
ココまで自分が育てあげたと思うと、なんだか口元が緩む。

あー、母親みたいな気分じゃ。
















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