10月。
海原祭を終え、地獄のテストを終え、

その結果がかえってきた頃。


「あの、仁王君。」


同じクラスの女子。
名前はなんじゃったかのう、ああ。確か苗字さんじゃ。
なかなかにレベルが高いといわれる立海の数少ない特待生。
柳をも凌ぐ成績――だが、数学だけ壊滅的なことで有名だ。
その苗字さんが俺になんの用じゃ。
今まで大して話したこともなかったし、委員会も一緒じゃない。

なんじゃ?と答えると苗字さんはそれはそれは素敵なテストの答案を俺に差し出した。



「…32点。ひどいのう」
「読まないでよね」


見せられたら普通読むじゃろ、と思いながらそれを受け取る。
まぁここまで綺麗に間違うもんじゃのう。
図形に至っては単位まで忘れとる。

「で、このひどい答案を見せて俺に何をいう気じゃ」





「…私に数学を教えてください仁王雅治様」




苗字さんの様呼びにゾクッときたことはおいといて、なんじゃて。


「数学?」


自らの手に持っていた数学の答案に再び目をやる。
円の数が半分以下のそれは、やはり何度見てもひどいもんじゃ。


「そう。仁王くん確かすっごい数学得意でしょ。」


数学は俺の得意教科だ。
他の点数はまぁ平均程度だが、数学だけは抜きん出ている。
それこそ、自分で言うのもなんだが数度学年トップスリーにあがる程度に。
じゃから苗字さんが言っていることに間違いはなかった。

けれど、なんで俺なんじゃ。


「柳とかでもええじゃろ」
「だって仁王くん一緒のクラスじゃん。私柳君と面識ないし。」


俺かて大して変わらんぜよ。
その言葉は飲み込んで、再び言葉を告げる。


「…そんで、俺に頼んでOKしてくれるとでも思ったん?」
「思った。っていうか仁王くん以外教えてくれないと思う。」


どっからくるんじゃその自信。
ただまぁ、彼女の言うとおり俺は不思議と迷惑に思ってなかったし、別に教えるくらいええかな、と思っていた。
伊達に特待生はしていないのか、そういうあたりの頭はいいらしい。
それを数学につなげられないものか。


「なんでそう思ったん?」
「ちょうど部活も引退して、後輩への指導もほどほどになってきて、暇をもてあましてる頃でしょ。」
「そうやのう」
「それに、柳君とかは面識ないってのが理由だけど、私他の教科は結構いいじゃんか」
「結構ってレベルじゃないぜよ」
「まぁそれはおいといて。なんか教えてる側が数学以外レベル低いと妬ましくない?」
「…ほう」
「柳君はきっとそういうの思わないだろうけど、なんか苦手なんだよね。隣のクラスの山内さんも数学すごくいいけど、彼女プライド高いじゃん。絶対途中で私にむかつくだろうし。」
「…お前頭ええんじゃのう」
「何突然」
「いや、なんでもなか」


おどろいた。その推理力というかなんというか。
確かに山内は他の教科は中の上レベルじゃし、まずアイツ教えるの向かん性格じゃとおもう。
柳は柳で、頭ええ同士じゃからレベル高い会話できるんじゃろうけど、コイツじゃ数学のほうの柳のレベルについていかん。
じゃから逆につらくなるんじゃろうな。

そこまで考えて、やっと自分が指名された理由がわかった。




「で、いい?教えてくれる?」
「…かまわんぜよ」



みっちり教えちゃる、と言うとお手柔らかに、と笑顔がかえってきた。

前はこんなこと頼まれても、絶対断わっとったじゃろうな…。
OKしたのは気分半分、期待半分、ってところじゃろうか。


コイツとの数ヶ月への期待。
















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