「名前殿!!」


朝9時15分。
1時間目の途中に教室に入った私は教師にいやな顔をされながら席に着いた。
いつもなら3時間目の途中とかに行くけど、今日は気分がノっていたので早めにきてみた。
これも、きっと幸村のせいだとおもう。
教室にはいった途端私の名前を嬉しそうに呼ぶ幸村がかわいくてちょっと顔の筋肉が緩んだ。


ぼーっとしていたらチャイムがなって、休み時間。
幸村が犬のように私の机に駆けてきて、よくわからない話を始める。
一方的に話されるのは好きじゃないけどけどそこそこ面白い話だったし、幸村が嬉しそうなのでまぁいいか、と聞き流していた。
なにより幸村、かわいいし。

昼休みになると幸村は猿飛先輩特製のおいしそうなお弁当を私の机に広げた。
私は購買いけばいいかなーとか思って何も用意していなかったけれど、急に購買にいく気がうせたので、幸村の弁当を少々頂いた。
卵焼きおいしそうだね。
名前殿、よければ…
何?たべていいの?
好きなだけ食べてくだされ。
じゃああーん。
えっ、そ、それは。
そんな会話をするのが楽しくて、私はいつの間にか幸村といる時間がどんどん増えていた。
休日はメールするし、電話もする。
メールは幸村が私のために苦手なメールを必死に打ってる姿を想像したらなんだか萌えるし、電話は電話で、それ特有のかすれた音声が何故か幸村の声に色気をくわえてちょっとドキドキした。


出会ってから数週間。
告白された日は「なにこいつ意味わかんない」とか思ってたのに、今となってはもう超大好きみたいなことになってしまった。
もし今奴に告白されたら二つ返事で、というか喜んでOKするだろう。
けれど幸村はこうやって友達づきあいを始めてからそういう素振りは全く見せなかったので、もしかして恋愛じゃなくって私と仲良くなりたかっただけなんじゃないの、なんて思い始めた。
まぁ、私みたいなのと仲良くなっても得なんてないけどね。





放課後、屋上でパンをむさぼりながら空をみる。
お昼ごはんだけでは足りなくて、つい購買でメロンパンを買ってしまったのだ。
あーやばい太る、と呟くと、名前殿は細いゆえにすこしは脂肪をつけたほがよいでござる、といわれた。


「幸村さぁ」
「なんでござろう」

コンクリートに寝そべって空をみているから幸村の顔は見えないけれどきっと嬉しそうな顔をしているんだろう。
目を瞑ればそれが浮かんでくる。
やべ、私幸村依存症かなんかなんじゃないの。とかおもいながら瞼を開けると真っ青な空。脳裏に浮かんだ幸村は青色に消えた。



「わたしのことすきなの?」


いきなり核心に触れすぎたか、なんて思ったけど遠慮するようなタチじゃないのであんまり気にしない方向で行く。
首を動かして幸村を見ると真っ赤な顔で只管空をみつめていた。
と、いうよりも空を見ていたまま固まってしまったというかんじ。


「そ、そそそれはどういった」
「そのままじゃんか。」


幸村最初私のこと好きっていってたじゃん。
それは、今なおLOVEなのか今ではLIKEなのか。それを聞いてるんですよ。

ゴロリと体を転がして幸村のほうに向けると幸村も同じように私のほうに体を向けた。
なんだか2人で布団の中にいるみたいで、情事後を連想させて何故か恥ずかしくなった。
ばかじゃないの、コンクリートだし空だし昼間だし制服だし。それより私処女だし。幸村も多分童貞。



「お、俺は最初名前殿の容姿しかみていなかった」
「えっそうなの」


突然幸村が私に惚れた理由を語り始める。
質問に答えてはいなかったけれど、あの日からずっと気になっていたので私は静かに耳を傾けた。


「初めて見たのは1年のとき、体育の時間でござる。」
「うん。」
「休憩で水を飲みにきていたときに、走り幅跳びをする名前殿を一目見て、その瞬間俺の心は奪われてしまったのでござる。」


その日そのときの感覚を思い出したのか幸村は空と真逆の色をした顔を覚ますように頬に手をあてた。
走り幅跳び、というと去年の夏か。
脚に自身があった自分は、お手本と称して他よりたくさん走らされていたのを思い出す。
不良まがいなんてやってるけれど、体育は好きだった。



「その後、名前殿を観察しているうちに…気が付けば心から好きになっていたのでござる。」
「ヒトメボレってやつ…?」
「は、はずかしながら」


別に恥ずかしがることじゃないよ、とぽんぽんと幸村のやわらかい髪をなでた。
ひとめぼれされるような綺麗な容姿をしているわけでもないけれど、純粋にそれは嬉しくて気恥ずかしかったので顔を背ける。

きっと今の私達はまっかっかだ。











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