02 「帰ったぞ、半兵衛」 秀吉さんの家はさすが大企業の社長、という感じに大きかった。 何処の武家屋敷だ、と思ってしまうような豪華な日本風の屋敷は、物凄く秀吉さんに似合っている。 また、体の大きな彼の家なだけあって門や扉全てが大きかった。 (普通の家だと、秀吉さん屈まなきゃいけないもんね。当たり前か。) 門の奥の引き戸を開けると半兵衛さんが居た。 前に見たスーツ姿ではなく、ワイシャツ姿だったのでいろんな意味で新鮮だ。 そして相変わらず、綺麗だった。 「早かったね秀吉。それと、名前ちゃん。その様子だと結果は、」 「はい、おかげさまで無事合格できました!」 「それはよかった。おめでとう。」 「ありがとうございます!」 「うん、…ああそれと秀吉、三成くんも無事合格したよ。まぁ心配なんて少しもしていなかったけれど。」 「そうか。」 半兵衛さんはふふふ、と綺麗な微笑を浮かべた。 秀吉さんは口数は少ないがその少年と私の合格を喜んでくれているようだった。 まぁ、元々彼は口数が多い人ではないし。 立ち話もそこそこに、彼は彼の部屋であろうところへ戻っていく。 半兵衛さんと2人になり、どうしよう、と半兵衛さんの顔を見ると相変わらずの綺麗な笑顔を惜しげもなく私に向けていた。 同じ人間とは思えないくらいの美しさだ。神様は不平等だと思う。 「そんなに見られると穴が開いてしまうよ。おいで、君の部屋を案内しよう。」 「は、はいっ」 じっと見ていたのがバレていたらしい。少し恥ずかしくなって、視線を下に移した。 長い廊下を進んで左手、そこにある扉。そこが、私の新たな部屋らしい。 この和風の家にしては珍しく、中は何故か洋室で、フローリングの床にベッドやクローゼットなどの家具が置かれてある。 家具が多いにもかかわらず、この広い部屋は十分な余白を持っていた。 「好きに使ってくれたまえ。女の子の私物だからあまり触るのはいけないとおもって、まだ届いた荷物はあけていないんだけど…。何か足りないものがあったら言ってくれれば用意させるよ」 「えっ…あ、ありがとうございます…!」 それだけ言うと、半兵衛さんは用があるらしくひらひらと手を振って部屋をでた。 家具まで用意してもらって、足りないものなどあるのか。 改めてこの部屋を見回した。 家具は全て新品で、ものすごくセンスがいい。 きっと高いんだろう。 ゆっくりとベッドに腰を下ろすとそのすわり心地に驚いた。 ものすごく高いベッドなんだろう、ふかふかだ。 白いカーテンも、触れてみるとまさに『シルクのような肌触り』だった。 居候ごときにココまで用意してくれるとは、お金持ちってこわい。そして申し訳ない。ありがたい。 とりあえず、家具はあるものの、クローゼットの中は空っぽだ。 私は部屋の端に積まれていたダンボールをあけた。 中には数日前に詰め込んだ下着や洋服がたたまれている。 うん、確かにこれを開けられると、ちょっと恥ずかしい。 伊達に大企業社長の秘書はやってないんだろう。プライバシー保護は完璧、といったところか。 私服や私物を部屋にあった棚やクローゼット仕舞い終え、ベッドの上で一息つく。 持ってくるものもそんなに多くなかったからあまり大変な作業ではなかったが、部屋が広いため少々疲れた。 今日から此処で暮らすという実感はまだ沸かないが、この部屋はやけに落ち着く。 日光もしっかり入るし、すごくいい部屋だ。 しばらくベッドのやわらかさを堪能していると、コンコンとドアを叩く音がして、入っていいかな?と半兵衛さんの声がした。 部屋の片付けは終わって見せて恥ずかしいものは特になかったので、はいと一言返すとドアが開き、半兵衛さんの姿が見えた。 そしてその後ろには、どこか見覚えのある少年。 そう、秀吉さんの携帯で見せてもらった、あの少年だった。 ←→ 表紙へもどる |