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昼休み、今日は珍しいことに家康君と2人だった。

2人というのには語彙がある。
他にも生徒は居るけれど、話し相手は家康くんだけだ。
いつもは三成君とか鶴姫ちゃんがいるけれど、三成君はいつもどおり多分元親先輩のところ、鶴姫ちゃんは孫市先輩という方に会いにいったらしい。

と、いうわけでロクに他の子たちと仲良くしていなかった私は家康君以外に構ってくれそうな人がいなかったというわけだ。
ちなみに他の友達を作るという選択肢は早々に排除した。
そんなことをしようとすれば舌を噛み、足を縺れさせて盛大にこけて、クラスの笑いものになりかねない。
友達もあまり居ないのに、そういう扱いになるのは避けたいし、知っている人に紹介されるのならまだしも自分から話しかけるなんて、無理だ。

それに、日頃家康君と2人で話す機会というのも中々無かったから。
家康君が居るときは大概三成君がいて、いえやすぅぅううう!!と叫んでいるから二人でゆっくり喋る暇なんてないのだ。
だから一度、こうして話してみたかった。


「家康君てさ、ボクシング上手いよね」
「ん?見ていたのか?」
「うん、前に部活見て回ったことがあってそのときに。動きがなんかもう、すごかったよ!私ボクシングに関して…っていうか、大体素人だけど、本当にすごかった!」
「あぁあの時か…。言ってくれればよかったのにな」
「いやいいよ、練習の邪魔だろうし」
「ん?そんなことはないぞ!名前が見に来てくれるなら、ワシはもっと頑張れる」
「え、」


気が付けば握られていた手と、何故か異様に近い距離。

いつも通りのにこっと爽やかな笑顔の家康君には、全く変化はないはずだ。
なのに、何か違和感がある。
けれど別段気にすることでもないと思ったので、日頃こうして話すこともないからかなぁ、と自分の中で勝手に解釈していまだ消えない違和感を無理矢理押し込めた。
(一瞬怖いとか思っちゃったけど何にもないよね、なんだろこれ)

「あ!そうだ。せっかくなら今日練習を見に来ないか?」
「え?」
「用事がなければなんだが…。今日は確か先輩との試合形式の練習だった筈だから退屈はさせないと思うぞ?」

家康君の練習かぁ、ちょっと見てみたい気もする。
あのときの家康君はすごくかっこよかったしなぁ…。


「じゃあ…」
「断る」


肯定の言葉を放つ前に、頭上から拒否の言葉が放たれた。私が発した訳ではない。
顔を上げれば、歯を軋ませて家康君を睨みつけているいつもどおりの三成君の顔がある。
家康君に握られていた私の手は、いつの間にか三成君の手の中にあった。


「はは、三成そんなに警戒しなくともいいだろう。何もとって食べたりはしないぞ?」
「煩い黙れ死ね残滅してやる。貴様の為に割けるようなコイツの時間など存在しない。」
「そうなのか?名前」
「え?」

家康君と三成君の喧嘩に巻き込むように、家康君は私に話を振ってきた。
そういうのは心臓に悪いからやめてほしいけれど、三成君の言葉は否定せざるを得ない。
私だって、暇な時なら家康君の練習を見に行きたいし、別に家康君に割ける時間が存在しないわけでもない。


「いやそんなことは…」
「ならいいじゃないか、三成には関係ないだろう?」

「関係ない、だと」


三成君の雰囲気が少しだけ変わった。
地雷を踏んだ、ような音がしたような気がした。

三成君は鋭い目をさらに鋭くさせ、ギリギリギリと音が鳴るような顔で家康君を睨む。
怖い、やっぱり彼は視線だけで人を殺せる気がする。握られていた手は少しだけ赤くなっていた。
もし私が家康君ならこっちが悪くても土下座の勢いで誤るだろう。
そんな視線を受けてもなお笑っていられる家康君て何者なんだ。


「…、名前ッ!今日は剣道部の練習を見に来い!!拒否は認めない!!!」
「えっなん、」
「返事は!」
「はいぃ!!!!」


うっかり三成君の凄みにやられて返事してしまった。勢いってこわい。
返事をしてしまった後だが、家康君の約束のほうが先だから普通は家康君を優先するもんじゃないだろうか、三成君の勢いにやられたにしろ失礼にも程がある。
家康君はぽかんとしていた。


「あの…えっと、家康君」
「そうか…。じゃあ今日は来れないな、名前。」
「ご、ごめん…。」


家康君のこんな、こんなにも寂しそうな表情は見たこと無かった。
悲しそうなその目に心がキリキリと音を立てる。
頭の中は罪悪感でいっぱいだった。


「え、あ…、ほ、ほんとにごめんね!今度別の日でもいいかなぁ…?」
「…いいのか?無理しなくても…、」
「無理なんかしてない!私がいきたいの!」

ちょっと強く言い過ぎたかもしれない。
そう思いつつも、こういわないときっと家康君はこなくてもいいって言ってくれるんだろう。
彼はすごく優しいから。
三成君には到底及ばない私的凄みのきいた顔で家康君をぎりぎりと睨んだ。
怒っているわけじゃなくて、自分の意見を通すため。優しい家康君のため。
すると、いつもの笑顔でじゃあ楽しみにしてると言ってくれた。
今日は家康君のいつもと違う面が見れた気がする。







と、そんなことより




「えっと三成君」
「なんだ」
「剣道部の練習…見に行く、から」
「…当然だ。約束だろう、裏切るな。」











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