12 「はぁ…」 数学ってなんでこんなにも難しいのか。 高校生になって一気に難しくなった数学と私は仲良くしていける気がしない。 疲れ切った脳を少しでも休ませるべく机に突っ伏した。 「名前ちゃん、大丈夫ですか?」 「あぁ鶴姫ちゃん…数学って生徒の敵だよね…」 「鶴もあまり数学は得意じゃないです。」 「えー意外。けど鶴姫ちゃん物凄い文系強いよね」 「はい!これでも毎日読書をしていますから!」 いいなぁ、私はちょっとだけ文系教科は得意だけど、鶴姫ちゃんほどじゃないし、数学もある程度はあるにしろ本当にわからないところはわからない。 三成君はどうなんだろう、すごく勉強できそうだしなぁ。 「三成君て勉強できる?」 「知らん」 「知らんて…」 「三成は昔っから頭よかったモンなぁ」 「そうなの?」 「イエヤッスゥゥウウ貴様何処から這い出てきた!!」 「ハハハ、何処って名前の隣に決まってるだろう」 「其処に座れ!!残滅してやる!!」 また三成君が騒ぎ出す。 三成君、いつもそんなに煩くないのに家康君が絡むと物凄く声が大きくなるなぁ。 というか単純にブチギレしてるのか。 「おーおー、派手にやってんな」 と、其処に1人の先輩らしき男性が現れた。 前に剣道部で見た先輩とは逆の左に眼帯をしていて、Tシャツの上からジャージを羽織るというなんとも校則破りな格好をしている。 ズボンからはチェーンが出ていて、不良くさい。 「元親!」 「何故貴様が此処に」 どうやら三成君と家康君は知り合いらしい。 なんだかちょっと怖い、と思いながら鶴姫ちゃんを見るとあの鶴姫ちゃんが目を釣りあがらせていた。 驚きだ、そんな鶴姫ちゃん見たこと無い。 「何しにきたんですかっ悪い海賊に名前ちゃんは渡しませんよ!!」 「そんなに怒るなよ鶴の字ィ。そんなことしに来たんじゃねえって。つーか誰だその名前って」 「そうだ、そういえばなんの用だ?」 「あァ、教室移動でちょっと近くまで来たモンでよ、一年の観察ーっつーか。」 「用がないならかえってくださいっ」 「まぁ待てって。つーかその名前って誰だ?」 何故か私の話題に持っていこうとする眼帯先輩。 元親さん、と家康君は呼んでいたけれど、鶴姫ちゃんの言う悪い海賊ってなんなんだ。 眼帯=海賊?いやどっちかっていうと、前に見た剣道部の眼帯先輩のほうがそれっぽい気がする。 とりあえず先輩だし三人とも知り合いみたいだし挨拶しておいた方がいいんだろうか。 「えっと、私です。苗字名前っていいます。」 「三成の家に居候してるらしい」 「ほォ、っつーことは三成が食ってたうめェ弁当を作ったヤツ、ってことか?」 「え?」 弁当? まぁ確かに前にというかあの日からずっと三成君と私の分の弁当は私が作っているけれど。 もしかして、三成君が一緒にご飯を食べてる先輩ってこの人なんだろうか? 「無理矢理飯の時間は来いと言われている。名前の弁当を食わせるつもりはなかった。」 「え、あ、そうなんだ。」 「てっきり彼女が作った弁当かと思ってたんだが。本当に違うんだな」 「違います!名前ちゃんは三成君の彼女なんかじゃありません!私の大切なお友達です!」 「鶴の字どんだけコイツのこと好きなんだよガード固すぎねェか?」 「いいんです!わかったらこれ以上名前ちゃんに近づかないでくださいっ!」 しっし、と先輩を追い払うように手を動かす。 鶴姫ちゃんはこの人のことが嫌いなんだろうか…。 「三成君この人誰?」 「ん?おぉ、自己紹介忘れてたな。俺ァ長曾我部元親!鶴の字の近所に住んでて三成と家康と同じ中学だったんだよ。アニキって呼んでくれて構わねぇぜ?皆呼んでるし」 「は、はぁ…長曾我部せんぱい…」 「なんだよ、他人行儀だな。せめてモトチカって呼んでくれよ。なげえだろ?」 「…元親先輩?」 「おう!」 呼び名を正すと、元親先輩はその大きな手で私の頭をわしわしとなでた。 妙な安心感がある。なんというか、お父さんみたいだ。 「あー!名前ちゃんに触らないでくださいっ!」 「おい元親、時間危ないんじゃないのか?」 「おっやべぇ。まぁ今度は鶴の字がいねぇ時に来るか。じゃあな」 元親さんは手を振って教室を出て行った。 鶴姫ちゃんは最後までぷんぷん怒っていて、三成君は至極どうでもよさそうだ。 家康君は笑顔で手を振っている。 「名前ちゃん!あの悪い海賊になんかされたら言ってくださいね!鶴が成敗します☆」 「う、うんわかった…」 鶴姫ちゃんが考えてるようなことはないだろうけど、 そう言おうとして口を止めた。 突然、三成君が立ち上がって私の頭を抑えてきたからだ。 「え、なに三成君」 「…何も無い。気にするな!」 「えっ」 「はは、三成消毒か?」 「煩い黙れ家康死ね残滅してやる」 元親先輩、鶴姫ちゃんには嫌われてるし見た目はちょっと怖いけど、なんか安心感あっていい人だったなぁ。 --- ←→ 表紙へもどる |