東堂尽八


今日は外食にせんか、と誘われてやってきたのは、尽八の実家くらい歴史と伝統のありそうな日本料理店だ。
こんなの、ドラマの政治家が悪い会話をしているとこでしか見たことがない。
迎えられて「東堂様、いつもご贔屓にしていただき…」なんて、いつもこんなとこでご飯食べてたのかよ東堂様と言ってやりたくなった。
座敷に通され、普段はすぐに緩めるはずのネクタイに手がかからない。
珍しいなと思いながらも店が店だからか?と突っ込まずにいたが、尽八はそれを抜きにしてもそわそわしていた。
普段どんなところに行っても堂々としている尽八のそんなところを見るのは珍しい。
大学生の頃に両親のうちに挨拶に行った時以来だ。
程なくして料理が運ばれて来る。味付けはやはりプロ、真似したいと思ってしまったのは、きっと毎日尽八に和食を作っているからだ。

「どうだ、美味いだろう」
「うん、美味しい。こんなとこ来たのはじめて」
「……」
「……?」

登れる上にトークが切れるんじゃなかったのか東堂尽八。
やけに乗らない会話に違和感を覚える。
ここに来てから…いや、よく考えれば朝から変だった。
いつもは味噌汁の具一つでも褒めてくれたりするのにそれもなく、今来ている少ししっかりとした洋服だって何も言ってこない。
普段なら適当なワンピースですら「似合っている」「お前のためにデザインされたようだ」と言ってくるのに、なにがあったのだろう。
まさか別れ話?最後にいい飯を食わせて、さっぱり終わらせるつもりなんじゃ…?
嫌な考えが頭をよぎり、振り払うために首を振ると控えめに尽八が名前を呼んだ。

「…実はな、ここの店、巻ちゃんですら連れてきたことがないんだ」
「へえ、そうなの?なんで?和食が嫌いとか?」
「そういうわけではなくてだな、ここは、その」

特別な、と言いかけて押し黙る。
それから沈黙が続くこと10分。
目線を合わそうとしない尽八にはなぜだか話しかけづらく、お互いがお互いあらぬ場所を見ている状態だ。
痺れを切らし、尽八と呼びかけようとしたときに、すっくと立ち上がった。尽八が。

「なまえ!」
「は、はい」
「…これ、を」

机を周り私の隣に来たかと思えば、差し出された小箱。まあ、デザインからして…指輪が入っている、気がする。
少し重い蓋をあげると、そこにはキラリと上品に輝くダイアモンドがある。
指輪、指輪。すごく高そうなのは言うまでもない。

「…今日でなんかの記念日だっけ?」
「そういうわけではないが…そうなるかもしれんな」
「え…」
「今日をオレとなまえの、結婚記念日にしてみないか?」
「………」
「嫁に来て欲しい」

切り込みから指輪を抜き取ると、それは私の左手の薬指に収まる。
綺麗すぎて、私の指には勿体無いくらいのそれは、尽八と同じくらいに輝いていて、眩い。

「…なまえ、返事は」
「聞く?」
「聞かねば帰れんよ」

はめといてなに言ってるんだろう、山の神だっていう癖に、こんな風に目線を彷徨わせて。

「不束者ですが、よろしくお願いします。」

深々と頭を下げる。尽八は大きく目を見開いて、私に飛びついた。
勢い余って座布団の上に倒れたが、誰もいないのでそのままにしておく。
襟元に埋められた顔からは微かにすするような音がして、もしかして泣いてるのかと笑ってしまった。神様も人の子だ、あー、幸せ。







とんでもない突発企画でした。付き合ってくれたもちこちゃんに感謝!
140226

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