巻島裕介


裕介の連れて行ってくれるところはいつもなんだか変だ。
まあ普段の洋服を見る限りセンスがちょっとずれているというのはお分かりいただけるだろうが、それを踏まえてもちょっとヘン。
入る飲食店ですら人を選ぶような何処かの国の料理や飲み物をメインにしたものであったり、兄貴に貰ったっショと渡された美術展も美的感性の貧しい私には理解し難いものだった。
後で調べて知るのだが、その美術展のチケットはレアで、ファンの間では行くことができた人が『勝者』と呼ばれるくらいであったらしい。なんだか私なんかが行って申し訳ない、と思ってしまった。

で、
話はかわって今いるのはレストランだ。
お金持ちの裕介が一般庶民の私には考えられないようなお店に連れてくるのは珍しいことではないのだが、ここもまた一服変わっている。
完全個室で、周りの様子はわからないりというか物音一つしない。
裕介は裕介で寛いでいるが、私は緊張して膝の上に拳を置いたままだ。リラックスするっショ、なんて裕介の声も耳に入らない。
メニューもないし、と部屋の中を見渡すと、壁から動物の首が出ていた。なにこれ、ヤギ…?
壁紙もすごい柄だし、まあ裕介のシャツには負けるけど…。
とか考えている間に部屋唯一のドアが開き、料理が運び込まれてきた。
よかった、料理はマトモだと思ったのは内緒である。
高級料理店にありがちな大きなお皿にこぢんまりとした料理に、やたら飛ばされたソース。
店員さんが去った後、どう食べようかとフォークとナイフを握り考えていると、裕介が吹き出した。

「別に誰も見てねェし、好きに食えばいいっショ」
「いやだって、作法とか」
「んなメンドいもんお前がするわけないショ、だから個室とったんだ」
「……」

言い方はどうあれ、裕介はテーブルマナーのわからない私のためにわざわざこの部屋をとってくれたんだ。
勢い良くフォークを突きたて、口へ運ぶ。味は………私が食べていいのかわからないくらいには美味い。
グルメリポーターではないのでなんとも言えないが、私の貧困なボキャブラリーでは表しきれないくらいには美味い。

「美味い!」
「そりゃよかった」

満足そうに笑う裕介にどきりとさせられた。
次のもすぐ来るショ、とお酒を呷ったのを見て、私もグラスを手にする。
透き通ったそれは甘く、お酒の苦手な私でもすっきりと飲めた。やっぱり高いところは違うのかな、メインディッシュに期待を乗せて、テーブル向こうの裕介を見た。


メインディッシュはすごかった。
よくわからない肉が出て来た時は怯えたが、食べてみると柔らかくとろけるような食感、高い牛肉もびっくりの舌触り。
裕介は普段こんなもんを食ってるのか、そりゃ金持ちの感性を私に理解するのは無理になるわけだ。

「すごい美味しいね、なんか裕介に普段私の料理食べさせてるの勿体無いくらい」
「オレ的にはなまえのメシのが美味いけどな」
「いやいやいやいやいやいや」

謙遜とか抜きにそれはない!
割と大きな声が部屋に響いて、思わず口を押さえた。

「なまえは面白いショ」
「バカにしてる?」
「いーや、愛してる」

バカはお前だ、と言いたくなった。
普段はそっけない癖に、なんでそんなことさらりと言ってしまえるんだろう。
謎の肉(と表記すると怪しい)をもう一度口に運び、咀嚼する。うん、美味しい。

「なまえ」
「なにい?」
「オレはこの先、こういうメシよりも…お前の手料理が食べたいショ」
「…そりゃありがたい」
「だからな」

かたん、と音を立ててテーブルに小箱が着地した。

「結婚して欲しいっショ、一応…給料3ケ月分はある」
「裕介の給料っていくら?」
「それはお嫁さんになってからのお楽しみっショ」

値段が怖くて箱にすら触れないんだけど。まあでも、答えは最初っから決まってる。

「裕介、私でよければ…もらってください」
「バカ、お前がいいんショ」




多分洋食
140226

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