ノート係。裏で新開に、オレがあいつのことをそう呼んでいたのをあいつは知らない。
課題が出るたびにいやな顔一つせずノートを渡してくるあいつを最初はただの都合のいいヤツだと思っていたし、新開に対してもそう言っていたが、気がつけばそう言うことはおろかあいつの名前を口に出すだけで恥ずかしくなっていて、そこでオレは初めてあいつのことを好きなんだと知った。
オレよりも先に新開はオレの気持ちに気づいていたらしく、告白しろよと何度も背を押されたが、オレは一度も首を縦に振らなかった。
臆病だったとか、そういうことじゃねェヨ。なんてったって、名前チャンの隣にはいつもあの女子が居た。
髪の毛を栗みてーな色に染めて、指定外のピンクのカーディガンなんか着た女子は男子にも女子にもちやほやされていて、『女らしい』っつーのはああいうヤツなんだろうなとは思ったが、どうにも好きにはなれなかった。
多分それは、あの女子がオレのことを見てるのに野生のカンっつーやつかなんかで気づいてたからだ。好きなヤツがいるときに向けられる好意っつーのは、妙に気分が悪い。
しかもそれが好きな女の友達となればなおさら。名前チャンがあの女子を大切に思ってるのは見ててよくわかったから、オレが今名前チャンに告ったところでアイツを理由に断られるに決まってる。
恋愛より友情をとるタイプだろうし、名前チャンが一番親しいのは多分あの女子だ。女子っつーのはそーゆう人間関係を嫌に気にするってのは、妹を見てりゃよくわかる。
オレが告白したせいであの女子とギクシャクして落ち込む名前チャンは見たくなかったし、冗談を言い合えるような、そんな距離に居心地の良さを感じてたってのもマジだ。
だから告白はしなかった。できることならこのまま卒業まで持ってって、あの女子が関わらないような場所で告白できりゃいーかな、なんて思っていた。
狼の狩りっつーのはしつけェんだヨ。少なくとも、オレにはそれくらいの余裕があった。あの女子に告白されるまでは。

呼び出されたのは、新学期が始まる一日前、入学式の日だった。
部活のヤツに「女子が呼んでる」と言われて指定された場所へ行くと、ソイツがいる。その時点で用件はなんとなく察していた。コレ、告白だなって。
思ったとおりの言葉が女子の口から出てきて、予想してたっつっても、実際言われてみると重みが違う。今は部活に集中してェから、と断ると、泣き出すかと思えばその女子は顔を両手で押さえたまま、くくくと笑った。

「はー、すっきりした。ありがと、荒北くん」
「…やけに平気そうじゃなァい」

思った以上にショックを受けていなさそうな顔の女子にオレが面食らったのは無理もないと思う。
見た感じ、友情より恋愛派で、失恋すれば取り乱すようなタイプだ。そのせいでオレが名前チャンに告白すんのも躊躇ってたっつーのに、こうもあっさり笑われては驚きもするだろう。
けたけたと笑った女子からは普段のフワフワした感じはなく、どちらかというと、名前チャンがするようなあっさりとした笑いだ。
猫被りたァよくやるじゃナァイ?褒めるように言うと、どこか寂しさを残した声で女子は「これでもがんばってたんだからね」と言う。

「荒北くんのことずっと好きだった。だけど、ずーっと名前のこと見てるんだもんねー、そりゃあきらめたくもなるって」
「知ってたのかヨ」
「そりゃ好きな人のことですから。いいよ、名前と幸せになっても」

肩の荷が下りたような、そんな感じがした。
名前チャンに思いが通じたわけでもねェのに、妙に安心感を得たのはなぜだろうか。
「まだ告ってねェヨ」と言うと、「早く言いなよ」と軽く腹を殴られる。いつもならゼッテーこういうことしねェヤツなのに、女子って怖ェなァ。
別れ際に「頑張って」と言われ、嫌いな言葉のはずなのに不思議とイラつかなかったのは、きっとコイツがすげー頑張ったっつーのが分かったからだろう。
無理矢理作った笑顔だって、名前チャンに勧められて塗った爪だって、全部オレのためだったのかと思うと胸が痛いが、そう言われても曲げられないほど、オレは名前チャンが好きだった。

「オレ、名前チャンのこと好きなんだヨ」

だからオレも頑張ったんだヨ、名前チャン。


140228







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