三年生になり受験生としての自覚をうんたらかんたらという話を右から左へ聞き流し、机の下でケータイを触っていると何の前触れもなくそれが震えた。
届いた友人からのメールを慣れた手つきで開くと、普段はちょっとした用事でも女子力満点絵文字も満点なメールを寄越すのに、今日のメールはやけに大人しい。
使われている絵文字といえばはてなくらいで、無駄な顔文字や謎の猫の絵文字はどこへいったのやら、簡素なメールには「放課後話があるんだけど時間大丈夫?」とだけつづられていた。
女子力を高く見せる絵文字の使い方なんて知りもしない私は、気を使わずに普段通りの白黒のメールを返す。何があったのだろう、フワフワした子だから感情の起伏は見えないところで激しいが、ここまで落ち込んでいるのは見たことがない。
年でいえば今年だが、年度でいえば去年のバレンタインに荒北が女子から告白を受けているのを見た、と言っていたときですら「荒北くんが告白されてるの見かけちゃった(´;ω;`)」と送ってきたのに、どういうことだろう。
心配になり、ホームルームが終わると即座に人ごみを抜けて友人の教室へ走った私のなんと友達思いなことか。途中ぶつかって話しかけられた新開をあしらい、無遠慮に教室に入ると私を見るなり涙目になった友人が飛びついてきた。
かわいい女子が泣いているのなんて、皆見ずにはいられないのだろう。自然と集まった視線からかくまうようにして教室を出て、向かったのは人気のない階段前だった。
久しく掃除されていないそこはホコリが積もっていたが気にもせず、ストライプのスカートを敷いて段差に腰掛ける。
どうしたの、と声をかけたと同時に勢いよく泣き出した友人から話を聞きだすのは骨が折れそうだ。
泣き止むまでの所有時間は20分。嗚咽交じりながらもようやく話せるようになった友人は、荒北くんに振られちゃった、と言葉を零した。
思わず背を擦る手が止まったが、言葉にしたことによりショックが戻ってきたのか、わっと顔を覆った友人にはきっと気づかれていない。
ぽろぽろとこぼれる涙のなんと綺麗なことか。こんな子を振るなんて、どうかしてるぞ荒北靖友、と思いながらも、どこかで喜んでいる自分がいることには気がついている。
新開の言葉がどうしても思い出されたが、今は自分の事よりも、この子をどう慰めるかが大事だ。大きな目の周りはこすったせいで赤くなっているし、たくさん泣いたからか目も充血している。
落ち着いたところで、甘いものでも食べにいこうと提案すると、やはり女子、そこには素直に頷いた。
前々から気になっていたという甘味どころへと二駅分足を伸ばし、抹茶パフェを頬張ると元気を取り戻したらしく、完食した頃にはすっかりもとの笑顔に戻っている。
「そっちのがいい」と素直に言うと、照れくさそうに笑い、お礼を言った友人はどんな女子よりも愛らしかった。
ついでにと買い物を済ませ通学組の友人と別れ、寮へ帰るべくさっきとは逆方面へ向かう電車に乗り、箱根学園最寄駅に着いた頃にはもう6時だ。
4月といえどまだ日が落ちるのは早く、少し暗くなった道を一人歩いていると、前からライトのついた自転車が走ってくる。まだ練習している自転車部だろうと特に気にせず、邪魔にならないよう端に寄った。

「オイ」
「…荒北?」

自分の1m後ろで、そのライトのついた自転車は止まった。ヘルメットを被り、汗を流した荒北が福富に貰ったという自転車に跨っている。

「今帰りか」
「そう、荒北は練習?」
「まーな」

まーな、と言う割に自転車を降り、くるりと向きを回転させた荒北に「どうした」と聞くと、にやりと笑って「送ってやる」と言う。珍しいこともあるなと思いながらも、素直に受け入れてしまった私は本当にさっき友人の失恋を慰めてきた人間と同一人物なのだろうか。
友人の名前を口にすると、荒北は分かりやすく肩を跳ねさせた。何が言いたい、と目線で訴えてくる荒北に、先ほどまでのことを洗いざらい話す。
やり辛そうな相槌を打つ荒北の自転車のお陰で、道は明るい。駅から寮までは徒歩10分程で、あまり遠くはない。
この機会にと思い切ってなぜ友人を振ったのかと尋ねてみようか。一歩一歩歩くたびに時間はなくなっていく。
無理矢理歩幅を合わせているせいで歩き辛そうな足取りは、友人のことを突かれた荒北の心情とリンクしているようにも感じた。

「荒北さ、なんで振ったの?やっぱ、自転車集中したいから?」
「…何、名前チャン気になんの」
「そりゃまぁ。大切なお友達ですし?あとは普通に気になるから。」

敵をとってやろう、なんて優しいヤツじゃない。これは私の単純な興味だ。
荒北のことが気になっているのは認めよう。だから、これくらい聞かせてくれ。立ち止まった荒北の顔を覗き込んで、思わず私も足を止めた。

「好きだから」
「…え」
「オレ、名前チャンのこと好きなんだヨ」

どうなんだよ、お前は。さっきまでの友人と同じ顔をして、荒北は言った。


140224







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