授業数が余ったという理由で映画鑑賞会に変わった本日六限目の英語の授業で見たのは、日本語字幕つきの恋愛物の洋画だった。
男は女を愛していて、女もまた男を愛している。
立場の違いから結ばれることのない二人をさらに引き離しているのは女の男に対しての気持ちで、結ばれないならと自らの恋心を否定する女の心情を察すると胸が苦しく切ない…と、普段恋愛映画なんて見もしない新開は語る。
私に言わせるとバカらしくて仕方ない。何がバカらしいって、好きだという気持ちを押し殺すことじゃない。不毛な恋をすること自体がバカらしいのだ。
そもそも私には決して思いの届くことのない人間を好きになるということが理解できなかった。
ロミオとジュリエットなんてその代表だ。俳優とか、アイドルとか、スポーツ選手とか、漫画の中のキャラクターとか。
恋心というのは成就してナンボのもので、そんな努力しても手の届かないような場所にいる人間を好きになっても虚しいだけだと思う。
都合のいい人間を好きになって、都合のいい人間と男女関係を結べばいいのだ。それで全部片付くのに。
そういう価値観を持つ私を見つめる新開は、いつも悲しげな、切なげな、そう、さっきの映画に出てきた女を見るような目をしている。
だってそうじゃないか、報われない恋なんて何の意味もない。
手の届かない人然り、既に相手がいる人然り、友達の好きな人然り。

「おめさんはそういうけどさ、オレはそう思わないよ」
「新開がどう思ってようと新開の勝手。私がどう思ってようと私の勝手。それでいいじゃん」
「よくねえな」
「…やけに突っかかってくるね」

まさかお前、好きな人がいるのか?尋ねるとハハハと笑って否定した。
指を差すのは新開のトレードマークではなかったはずだが。指先を摘むと顔を歪め、手を振り払われる。
オレじゃないさ、と言った言葉の意味はよくわかっている。つまり私が、不毛な恋をしているとそう言いたいんだろう。
そんなわけない。なんならお前を好きになってやろうか?と冗談でも言おうかと思ったが、シャレにならないのでやめておく。絶対ややこしいことになる。新開だって、メンドウなことが嫌いなのは同じだろう。

「オレから言えるのはさ、たまには素直になってみろよってことだ。お前が思ってるほど厳しいもんじゃないぜ、それ」
「よく言うよ」

私の友人に言ってやってよそれ、と言うと、笑いなくやんわり断られ、そういえば新開はあの子がキライだったなと思い出した。
アホっぽい男子からのウケはいいくせに、こういう鋭いヤツからは嫌われるんだよなぁ。だから今も絶賛奮闘中なんだろうけどさ。
友人は頬杖を付いてピンク色のケータイを弄り倒している。ストラップは私とおそろいのだし、爪だって私が勧めた色に染まっている。
どこからどう見てもかわいい女子で、道行く男子にこの子かわいいよねと尋ねれば全員が素直に頷くような子なのに、恋愛となるとまた簡単にはいかないらしく、きっと今も恋のおまじないやら、恋愛コラムなんていう頭が綿菓子なみにふわふわ甘い女子が好きそうなものを見てるんだろうな。私はそういうの好きじゃないけど。

「オレは名前とあの子がどうしてあんな仲いいのか不思議で仕方ないよ」
「私だって不思議だよ。全然キャラ違うもん。でもキライじゃないんだからいいじゃん。新開が仲良くするわけじゃあるまいし」
「そうだけど、でもそのせいでオレも名前も困ってんだろ?」
「…困ってないってば」
「困ってるだろ」

強く押された眉間が痛む。困ってるからこんな顔をしているんじゃない、眉間にシワが寄るのはクセのようなものだし、今更直せるものでもないんだ。
こうやって、悲観的なことを考えずに生きていこうとするのもクセ。無理難題から逃げるのもクセ。全部全部、中学に上がる前、新開に出会う前からのクセなんだ。

「お前が一言、靖友のことが好きだって言えばいいだけなのになぁ」
「言うわけないでしょ、バカ新開」

叶わない、不毛な恋をするなんてバカらしい。私はそんな恋、絶対しない。





漫画の中のキャラクター云々は自分に耳が痛い
140217








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