昨日は放課後まで話さなかったけれど、昨晩会った(というのも変な言い方だが)ところなので、その日はすぐに話をする機会が訪れた。
いまだに信じきれないところもあるので椅子の色を聞いて確認したけれど、やっぱり違いはない。お互いにしっかりと覚えていた。
昨日の話の続き。夢の中の出ごとの話を人の多い教室でするわけにもいかなかったので、休み時間を少しお借りして人気のない階段脇へ、壁に背をつけ並び立つ。
偶然にもそこは私が夢の中で宝くじに当たったとき荒北くんに助けられた場所だったけれど、ここは現実でクラスメイトの精神は正常だ。
夢を思い出し眉をひそめた私を見て、荒北くんは「夢に振り回されすぎだろ」とけらけら笑った。

「そうだいえば、昨日は教科書を枕の下においてるって言ったんだけど」

今日の朝気づいたことを口にする。
荒北くんと別れ(というか、夢から醒め)起きてすぐに保健の教科書を開いてパラパラ捲くっていると、何かが掛け布団の上にひらりと落ちたのだ。
B5のプリントを半分に切ったようなサイズのそれは、2年になってすぐに撮ったクラスの集合写真だった。
撮影当日欠席はゼロだったので、当然荒北くんも写っている。
写真というキーワードに、有名な迷信をすぐに思い出した。恐らく原因はこの写真だったのだろう。
私は意図せずして荒北くんの写った写真を枕の下に入れていたということだ。だから荒北くんが夢に出てきた。迷信を信じきるとすれば、そうなる。

「つーことは、その写真を枕元から出しときゃいいんだろ」
「うん、そうなんだけど」
「何だヨ、まァた荒北くんと夢で会えなくなるー、とか言うのか?」

裏声で、全く似ていない私の真似をする荒北くんにむっとしてにらみつけた。
恥ずかしいことに、悔しいことにそれもあるんだけど、私が言いたいのはそうじゃない。
私が荒北くんと通じるような夢を見たのは、写真があったから。それで納得はいく。一応。
だけど、そういうことならば荒北くんはどうやってあの夢を見たんだという話だ。だって、その理屈でいくと荒北くんも枕下に何かを入れていないとおかしいことになる。
荒北くん、枕の下に何か入れてる?と尋ねたけれど、はっきりとした回答はもらえなくて、のらりくらりとかわしにかわされごまかされてしまった。
深く追求しようとすると教室へ逃げられてしまって、そんなに都合が悪いのかと不思議に思った反面、少し寂しくなる。
…まさかクラスの誰かが好きで、その子の夢が見たくて集合写真を枕の下にはさんでいる、とか。
そんな考えが浮かんでしまって、自分の妄想にショックを受けながら自分も教室へ戻り席に着いた。
そういえば、今日の夢は話をしたくらいで事故も事件も起きなかったけれど、何か関連する出来事は起きるのだろうか。


結論から言うと、その日は何も起こらなかった。
強いて言うならば、荒北くんと普段よりたくさん話したところだろうか。
少し前までは親しくはないクラスメイトという立ち位置だったのに、お互い夢で意識して会っていたということを知ってからは妙に親しくなったように思う。
友達からも「荒北くんと何かあったの?」と囃し立てられるし、本人ともよく目が合うようになった。
自分的にはプラスなことばかりで、嫌な夢ばかり見るけれど悪くはない。そう思う。
そもそも最初の三日間は立て続けに友達が大変なことになってショックを受けていたけれど、それ以降はなんだかんだで荒北くんに助けてもらっているし、内容はともかく割といいことなんじゃないかと思えてきた。
見始めた当時は荒北くんを意識していなかったし、これは今だから思えることなのかもしれないけれど。

さて、今夜はどんな夢を見るのだろう。
写真はきちんと退けたから、荒北くんは出てこないかもしれない。
できれば、いい夢を見たいな。もしくはぐっすり眠りたい。
フワフワした気持ちの中、荒北くんのことを考えながらも眠りに落ちたのだが、それはすぐに醒めることとなった。

「っ…!」

手汗びっしょり。背中もびっしょり。こんな寝汗をかくことは、最近なかったのに。
夢の内容は聞かれても答えたくないような、思い出したくないような、そんな代物だった。
簡単に説明だけすると、私がむごい方法で荒北くんに殺されるようなとんでもない悪夢だ。
夢だから当然痛みもない。だけど、精神的に辛かった。やめてやめてと言っても荒北くんはニタリと笑ってやめてくれないのだ。
その夢の中では夢だと自覚していなかったし、自由に動くことはできなかったから荒北くんと繋がっている明晰夢とは別物だとすぐにわかったけれど、悪夢は悪夢だ。
むしろそれが唯一の救いとも言える。あれがいつもの明晰夢で荒北くんが本人だったら、気が気でなかっただろう。
のっそりとだるい体をベッドから起こし、小学生の頃から使っている学習机の中に仕舞っていた写真を取り出して、枕の下に挟んだ。
これからもう一眠りという気分でもなかったが、これがあると少しは気持ちが違う気がしたのだ。
荒北くんも今、悪夢を見ているのだろうか。できるなら、私を殺す夢以外でお願いしたい。
夢の中だったとしても、好きな人に殺される夢はものすごく堪える。
枕の下にいれたばかりの写真を取り出して、暗い部屋のなかでじっと眺めた。
荒北くんは集合写真だからか、珍しくぴしっと制服を着て、だけどやっぱりカメラを睨んでいた。
私のほうはと言えば、あまり写りがよくないので見たくない。こういう写真って、どうしてヘンに写るのだろう。
ケータイのサブディスプレイの時計を眺めること数時間。一睡も出来ないまま、朝が来た。

早く荒北くんに会いたい。




140416




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