土曜日。天気はいい。風もなく、ほどほどの気温。
こんなときは出かけるに限る。特に友達と約束はしていないけれど、たまには一人でショッピングも悪くないんじゃないだろうか。
服を着替えて、化粧をして、家を出ると、家の前には強固なバリケードが築かれていた。

「…え?」

ああ夢か。もう慣れたものだ。学校の机やら、コーンやら、お店のショウケースやら。
なんで此処にあるんだと言いたくなるものばかりが道に積み上げられている。
一体誰がこんなことを。視線を泳がせて、一つの場所に留まった。

「……荒北、くん?」
「そォだけどォ」

荒北くんだ。荒北くんなのだけれど、私の知っている荒北くんじゃない。
私が知っている荒北くんはもっと目が細くて、背も高くて、こんなにむにむにかわいらしい容姿をしていなかった。
目の前の荒北くんはまるで子供だ。ていうか、まるでというか、子供だ。
目つきはやっぱり悪くて、何となく荒北くんの名残がある。
にわかに信じられないが、彼が荒北くんだというのだからきっと荒北くんなのだろう。
三夜連続私の夢に出演ご苦労様だ。ここまでくると、自分はどれだけ荒北くんが好きなのだと心配になる。
今の荒北くんは私の腰ほどまでしか背丈がなく、必死に背伸びしながら虫かごのようなものを事務机の上に置いていた。
もしかして、このバリケードをこさえたのは荒北くんなのだろうか。

「荒北くん、もしかしてコレ作ったの、荒北くん?」
「他に誰がいるってんだヨ」

子供でも口の悪さは健在らしい。色んなものを積み上げていくの手をとめないまま、荒北くんは言った。
じゃあなぜこんなものを。私、ちょっとお出かけしたいんだけど。
どうにかぬけられないかと思ったが、バリケードは予想以上に高くてみっちりしている。隙間はない。
一つ崩せば全部崩れてきそうだし、何より一つ一つが重そうなものでできているので迂闊に動かせない。
こんな子供の荒北くんが作れるとは到底思えない代物だ。誰かに手伝ってもらったのだろうか。

「荒北くん、あのさ、私買い物行きたいんだけど、これ壊してもいい?」
「ハァ?!何言ってんの、みょうじチャン」

ダメにきまってるだろ、と頬を膨らませた。その仕草がとんでもなくかわいらしくてきゅんとする。
…いや、きゅんとしてる場合じゃない。
軽そうなところから崩していこうとバケツに手を伸ばす。
すると、後ろから大きな声がした。振り返ると、存外近くに居た荒北くんが鋭い目に涙をいっぱい溜めている。

「何で壊すのォ」
「何でって」
「せっかく作ったのに」
「いや、私でかけたいんだけど」
「ダメ」
「ええ」

ついにそれはあふれ出てしまった。ぽろぽろと流れた涙はしみを作る。
やはり私も女子高生。子供の涙には勝てやしない。
バケツを元に戻して、荒北くんに目線を合わせてしゃがんだ。
泣かないでと頭をなでると、胸に飛び込んでくる。か、かわいい…!
抱きしめてよしよしと頭をなでると、胸に違和感。あれ、これ。

「みょうじチャン、思ったよりあるネ」

こちらを伺う目は細い。完全に、17歳だ。
叫びそうになったところで、目が覚めた。
背中を裂かれたり、コールドドリンクを渡してきたり、子供になったり。荒北くんは忙しい人だ。
思ったよりあるネ、じゃない。なんとなく触られた感覚が残っている気がして、一人ベッドで胸を押さえた。
本当は昨日の夜、夢と同じ様に出かけようと思っていたのだけど。
時計を見ると、起きようと思っていた時間を1時間過ぎている。なんだか気分が萎えてしまった。
出かけるの、やめようかなぁ。荒北くんがバリケード作ってまで阻止してたし。
着替えるのもめんどくさくなって、また布団にもぐった。暖かい。

その日の夕方、電話がかかってきた。姉からだ。
どうやら、私が出かけようと思っていたショッピングモール付近に通り魔が発生したらしい。
昨晩姉に「明日行こうかなあ」と話していたから、心配になってかけてきたらしい。
もしかして、荒北くんはそれを見越してバリケードを作っていたのだろうか。なんて。
また助けられた。夢の中での荒北くんは、私のヒーローで生存フラグになっていた。




140406




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