白い階段は延々と続く。
いい加減立てと起き上がらされた私は、さっきと同じ様に荒北くんの後ろをついて歩いていた。
手足はなんとか動く。恐怖が残っているけれど、あのまま居るわけにはいかない。
もしかしたら、また獣がやってくるかもしれないのだ。
階段を下りていると、沈黙が痛い。
むやみに話しかけるのも荒北くんをいらだたせることになるかと思ったけれど、正気じゃいられなくなりそうになったので、声をかけた。

「荒北くん、靴…その、ごめんね」
「別にィ。ンな値段しねェし」

きっと嘘だろう。
さっき獣を落とすために投げた靴は、自転車用の靴だった。
目を瞑っていてわからなかったけれど、咄嗟に投げた靴が獣のバランスを崩して、勝手に落ちてくれたらしい。
かなり大きい獣だったけれど、体重はつりあっていなかったようだ。やはりそこは、夢らしい。
よくそんなの当てられたなと言うと、元ピッチャーだと語った。中学時代の話だと言うが、3年経った今でもそれなりのものをお持ちのようだ。

それから、いろんなことを話した。
部活の話、学校の話。りっちゃんに気がついたら新しい彼氏ができていたと言うと、笑われた。
あんな夢まで見て怯えていたのに、杞憂に終わってよかったと思う。
荒北くんは、部活の友達のことを教えてくれた。
前に言っていたフクチャンとは部活の友達で、彼が自転車に乗るキッカケをくれたらしい。
近いうちにレースがあるとも教えてくれて、ここから出られたら見に来いよなんて言った。
…どうみてもフラグだと思ったので、へし折っておいた。

「荒北くんさ」
「あ?」
「荒北くんは…私と夢を共有してるって知って、どう思った?」

二人きりになることなんて、現実世界じゃ滅多にない。
この状況はいいと思えなかったけれど、今のうちに聞きたいと思っていたことを聞くことにした。
前を歩く荒北くんの顔は見えない。アーと声を上げて唸る荒北くんからは返事が聞けなさそうだと判断して、言葉を続けた。

「私はさ、よかったって思ってるよ。」

これは本当の気持ちだ。

「私、荒北くんのことこんな風になるまで全然知らなかったし、夢の中だけど…助けてもらって見方すごい変わったの。すごい優しい人だなって」
「…普通夢の中でも困ってたら見捨てねェヨ!優しいとかじゃねェだろ」
「そうなんだけどさ。ね、私のこと単純だって笑うかな」
「はァ?」
「こうやって助けてもらって、夢を共有して、荒北くんのこと好きになってるの。つい二週間前からなのにね」
「…ナァニ言ってンのォ」
「なんて、ね。夢の中だから、言ってみた」

振り返った荒北くんに、にこと笑いかけた。すぐに前を向いたのは、照れ隠しだろうか。そうだといいな。
長い長いと言っていた階段は話しながらだと速く進むのか、思ったよりすぐに終わりは見えた。
向こうのほうに、広がった場所がある。獣はいなさそうだ。
速度を上げて、そこに足をつける。相変わらず壁はない。
そこにあったのは、二つのドアだった。
両方白色で、幅は人一人分しかない。
二つあるということは、別々に入れということだろうか。
ドアにはノブがついていて、それぞれその上に青とピンクの色がついている。
この色を見るのは3度目だろうか。荒北くんは私に何かを言う前に、ピンク色のドアの前に立った。

「いいの?前はピンクイヤだって言ってたのに」
「いーんだヨ。どうせ夢の中ではオレはピンクなんだろ」
「似合ってるよ?」
「っせ!」

二人一緒にドアをあける。そこには待ってましたと言わんばかりに青色の椅子があった。
…座るしか、ないよね。
恐る恐る腰を下ろすと、それはエレベーターのように動いた。感覚的に下に降りているのがわかる。
あるところで止まると、グググと何かの動く音がして、きょろきょろと白い壁に囲まれたなかを見渡すと、上から紐が伸びてきた。
あの夢の逆パターンかと思ったけれど、私の首にギロチンはない。
他にはなにもないし、壁は押してもたたいてもビクともしなかった。
どうやら、この紐をひくしかないらしい。
この紐が向こうの荒北くんの首に繋がっていませんように。そう祈って少しひくと、妙な浮遊感が私を襲った。

「え」

壁がなくなる。あれ、これ、デジャブ。
紐を掴む私。見上げると白い壁と、その先には青い椅子。足は勿論荒北くん。

「…二回目、かヨ」

嫌な予感しかしない。私の足元に、奈落から風が吹いた。




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