接近する話

ゆうきチャンと二人でダラダラいつも通り弟のノロケなんか聞いたりして話していたら、先公に呼び止められ雑用を押し付けられた。
オレ一人だったら絶対頼まねェクセに、ゆうきチャンは真面目チャンな委員長をやってやがるから、男手もいるならついでに、とか考えやがったんだろう。
面倒なことこの上ねェし、なんでオレが、つーかゆうきチャンも素直に了解してんじゃねェヨと思いながらも、二人きりになれるかもなんて単純なことを考えて喜んじまってるオレがいるのも事実。
二人で埃っぽい社会科準備室へと出向き、暫く開かれていないのであろうドアを開けた。
蛍光灯も随分変えられていないのか、バチンと電源を入れても点滅する。
窓から差し込む光と、チカチカとしたウゼェ照明だけで目的のものを探すことになった。

「んで、何いるんだってェ?」
「世界地図、おっきいやつがあるらしいんだけど…ほら、一年の時に使ってたでしょ?」
「覚えてねーヨ、ンなもん」

埃まみれなのを気にもせず、ゆうきチャンは奥へ奥へと進んでいく。
オレが玄関に突っ立っている訳にもいかねェし、渋々ついて行くと床がみしりと音を立てた。旧校舎の老朽化が激しいっつーのは聞いてたけどヨ、コレ、抜けちまうんじゃネェ?
私立なのにボロいってどうなんだヨ、と文句を垂れながら進むと、目当てのものを見つけたのか、ゆうきチャンがすぐそこにあった使われていないパイプ椅子を組み立て、それに乗った。

「オイゆうきチャン?」
「ん、ちょ、荒北そっち持って」
「ハァ?!」

筒状に巻かれたバカデカい布製の地図を、ゆうきチャンは引っ張り出していく。
オレの頭の位置に伸びてきた地図の端っこを持たされ、ずるずると後退していった。
つーか、わざわざゆうきチャンがやんなくてもオレがやればよかったんじゃネェノ?
チビのくせに頑張っちゃってヨ、男がついてきた意味わかってんのォ?

「うわっ」
「ッ?!」

考え事をしながらゆうきチャンの背中を見ていたからか、ぐらりとゆうきチャンがバランスを崩したことにとっさに反応できなかった。
両手を塞いでいた地図を投げ捨て、ゆうきチャンを支えようと腕を伸ばしたが少し遅かったらしい。
パイプ椅子が倒れ、オレの脛にぶつかって、ゆうきチャンはそのままオレの上でに降ってきた。

「っ…あ、荒北…?」
「イッテェ…ア?」

パイプ椅子がぶつかった脛がとんでもなく痛ェ。
ヒリヒリする、折れてねェよなァ?と心配したが、その様子はない。
足の無事を確認してから意識がいったのはオレの腹の上にぺたんと座り、オレの胸に両手をついているゆうきチャンだ。
自分のことを好いてる男の上に乗るとか、事故と言えどちょっとやりすぎじゃナァイ?
いやでも早くなる心拍数に混乱しながらも、焦りを浮かべた顔を見上げていると、どうにもいたずらしてやりたくなっちまう。
すぐに退こうとしたゆうきチャンの腕を引っ掴み、勢い良く引いた。バランスを崩したゆうきチャンはそのままオレの胸にダイブしてきて、鼻をぶつける。

「あ、荒北…?」
「ごめェん」
「なに、やって…ん、」

離しかけた顔を、後頭部に腕を回してオレの胸板に押さえつけた。
コレ、心臓の音、全部聞こえちゃってンじゃね?ってくらいの距離。
胸元で荒北、だのなんだの喋っているが、くぐもってよく聞こえねェ。
擽ってェヨ、もぞもぞそこで話すんじゃネェ。
暫くこうしているといろんな感覚が覚醒してきて、腹筋に当たる胸とか、オレの硬い足とぶつかっている柔らかい太ももとか、そういうものを意識するようになってきた。
視界の端に地図が転がっている。これ、ちょっとヤベェなぁ。

「なぁ、ゆうきチャン、オレさあ」

今なら全部言える気がする。
口を開いて後頭部に回した腕の力を緩め、顔を見ようとしたときだった。

「おーい、荒北、泉田?」

ビクン、と体が跳ねた。
飛び上がるように体を起こしたゆうきチャンの動きの早いこと早いこと。
少し乱れた制服を即座に直し、なかなか帰ってこないオレたちを見に来た先公に「大丈夫です!」と返事を返す。大丈夫?コッチは全然、大丈夫じゃネェんだけどォ?!

「ごめん荒北、大丈夫だった?」
「アァ…ウン、平気だヨ」
「よかった、これ持っていこ?チャイム鳴るよ」

何もなかったかのように準備室を出て、二人で地図を運んでいった。
マジでコイツ、何も意識してねェのォ?
弟と同じく伸びたまつげと、クソ真面目な背筋が、今では憎らしく感じた。あの体の柔らかさはしばらく忘れられそうにない。


140321

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