道の脇にあるベンチに座らされて、未使用だという言葉と共にタオルが渡された。 それを目にあてると、日光が遮られて少し楽になる。 めまいが止まった頃にタオルを退けると、自販機で買ったのだろうか、冷えたペットボトルのスポーツドリンクが差し出された。 「…すみません」 「気にするな。具合はどうだ」 「ちょっと、マシになりました」 「そうか」 差し出されたスポーツドリンクを遠慮なくぐいと飲む。 半分ほどなくなったそれはひんやりと私の体に入り込み、冷えて癒した。 「ちゃんと寝ているのか?」 「え」 「顔色が悪いから、睡眠時間が足りていないのかと思ったのだが」 そんなに酷い顔をしていたのだろうか。 睡眠時間は、一応足りているとは思うのだけど、昨日のケンカとストレスで体力を使い果たしたのかもしれない。 母と昨晩ケンカしましてと声をひそめてつぶやく。 福富くんは何か言うでもなく、一言「そうか」とだけ返事をした。 もう一度スポーツドリンクのボトルを大きく傾けた。一気に飲み干したそれの中身はもう空っぽだ。 福富くんの伸びた手がボトルを掴むと、近くの自販機脇にあるゴミ箱に捨てた。 部活で忙しいだろうに、何から何まで申し訳ない。 まだ日差しが霞ませる視界の向こうに、委員長と東堂くんの姿が見える。 どこかへ行っていたが戻ってきたのだろう、東堂くんは新開くんと話していた。 ゴミ箱から戻ってきた福富くんにもう大丈夫かと聞かれ、これ以上手を煩わせるわけにはいかなかったのでお礼を言って、恐る恐る立ち上がった。 体調は戻ったようで、めまいはない。 無理するなよという言葉と共に、いつのまにか起こした自転車に乗って福富くんは走り去っていった。 藤原の彼女が、藤原をデートに誘えたらしい。 朝練の休憩中に報告があると駆け寄ってきた彼女を、他の部員の前では話しにくいだろうと少し日陰の場所に連れて行った。 「遊園地に行くことになったの」幸せそうに話す彼女を見ていると頬が緩んだ。それから、オレもがんばらんとな!という気にさせられる。 デートプランについて少し話してから新開たちの待つ場所へ戻ると、道を挟んで向こうにフクとななやまさんの姿が見えた。 なぜあの二人が? 心臓がきゅっと掴まれたような、そんな感覚になった。思わず目を見開いた。 ななやまさんは体調が悪いのか、顔にタオルを乗せている。 フクが介抱しているのを、オレは棒立ちのまま眺めるしかなかった。 どうしたんだろう。体調不良だろうか。遠目でも気分が優れないのだろうことはよくわかった。 今すぐ駆け寄って何があったと尋ねたかったけれど、オレにはそれができなかった。 フクは去年同じクラスでそれなりに話をしていたというし、同じクラスでもこの間一度会話したっきり、普段特に交流のないオレがいったところで迷惑なだけかもしれない。 自分が情けなくなった。あの場にもしいるのがオレだったらよかったのにと。 フクに嫉妬している自分が格好悪い。こんな男をななやまさんが好きになってくれるわけもないのだ。自分に自信はあるけれど、こういうところでうまく立ち回れなければ全て同じだ。 体調は大丈夫なのだろうか、ななやまさんが立ち上がって、フクがジャイアントに乗ってオレたちの元へ走ってきた。 隼人が何かあったのかと聞いた。立ちくらみだそうだ。 もやもやしたものを抱えたまま、その日の朝練は終わった。 140121 << >> 戻る |