学校からの帰り道、本屋に寄ろうときめて、少し遠くにある大きい本屋さんへ向かった。
この店に来るのは一ヶ月ぶりで、知らないうちに少し気になっていた本のドラマ化が決まっていた。
マイナーな作家や昔の本まで取り揃えている。
大きな本棚にテンションが上がってつい長居してしまった。
家に着いたころ、時刻は8時を越えていて、連絡もナシに遅くなったことで母はかんかんに怒っていた。
普段なら口答えもせず素直に謝るのだが、この時は母が受験前なのにとか、勉強がどうとか、最近ケータイ見すぎじゃないのとか。
今日以外のことまでぐちぐちとつついてくるものだから、ついかっとなって怒鳴ってしまった。
勉強は自分なりに頑張っているし、志望校の合格ラインもあと少しだ。
ケータイをよく見るようになったのは八くんとメールするようになったからだが、勉強中は電源を切っているし、いい息抜きと刺激になっている…と、思う。
少なくとも、これが原因で勉強の手を抜くようなことはしていないはずだ。
怒鳴りあいは途中で父が帰ってくるまで続いた。
何があったと慌てる父を無視して部屋へ飛び込み、私は制服のままベッドにもぐりこんだ。
ケータイを開くと八くんからメールがきていたことに気づき、慌てて返信する。
怒鳴り疲れてあまり頭が回らなかったからきっと変な文章になっていることだろう。
鋭い八くんに案の定察されて、一方的にいきさつを話した。
あとから冷静になって送信メールを見返せば殆ど愚痴で、きっかけを言えば悪いのは私なのに、八くんはちゃんと聞いてくれていた。
それから、かっとなる気持ちも分かるけどあまり遅いと親御さんは心配するし、オレも心配だと。
液晶の明るさが目に刺さる。ぽろぽろとこぼれた涙が枕に沁みた。

あのまま結局寝てしまっていたらしい。
起きたのは5時で、昨晩はシャワーも浴びていなかったからとお風呂に入りリビングへ行くと、ラップに包まれた一人分の夕食が置いてあった。
朝から食べるには量が多かったけれど、おなかがすいていたので温めて食べた。
シャツを替えてスカートにアイロンをかけて、支度が整った頃に母が起きてくる。
昨日はごめんなさいと、素直な気持ちで謝ることができたのはきっと八くんのおかげだ。
いつもより早く学校へ行くと、通り道に自転車競技部が走っていた。
早朝の白い空の下、八くんもこんな時間から練習しているんだろうかと、どこにいるかもわからない彼に想いを馳せる。
校門を潜ると、芝生になっている場所に何人かの自転車部が休憩していた。
三年生の姿が目に付く。
当然その中には見知った顔もいくつかあり、同じクラスの東堂くんもいた。

…なんとなく、試すような気持ちだった。
ケータイのメール作成画面を開く。
慣れた手つきで八くんを宛先に選んで、朝の挨拶と昨日のお礼、それから今なにしているかを聞いてみた。
朝練中だろうから、返信はないよね。
返信を期待せず、不自然にならないように自転車部をちらちら見ながら歩いていると、東堂くんが何かに気づいたようにプラスチックのボトルを置いて、背中のポケットに手を伸ばした。

「!」

手にはケータイ。
黒髪の、同じクラスになったことはないけど何度か見たことのある自転車部の怖い顔の人がケータイを持ち込むなと怒鳴っている。彼の言い分はもっともだ。
東堂くんは自転車部の人の言うことを流しながらぽちぽちと何かを入力して、閉じて、また背中に仕舞った。
そして鳴る私のケータイ。
そんなわけないと思いたかった。そんなはずないって思い込むために送ったのに。
勘違いで済ませるにはあまりにもタイミングがよすぎた。これは、確信せずには居られない。
私は振動し続けるケータイを握ったまま、その場に立ち尽くしていた。
偶然?いやいや、こんな偶然があるものですか。

私に気づきもしない自転車部の面々の並ぶ芝生に誰かが走り寄って来る。委員長だった。
よく見えないが、身振りが激しい彼女だからご機嫌なことだけはよくわかる。
委員長は東堂くんの前に立つと一言二言何かを話してから、二人でどこかへ歩いていった。
新開くんが手をひらひらとして、黒髪の人が彼らに何かを怒鳴った。
私はといえば、冷水をかけられたかのように頭が冷えていた。
やっぱり、そうだったんだ。
八くんの正体は東堂くんだった。それで、好きな人っていうのは委員長。
ふらっとして、足元の感覚がなくなった。立ちくらみだろうか。太陽がやけに鋭く感じる。
立てなくなって、思わずしゃがんだ。
座り込んでいる私の前に誰かの自転車が止まる。
人通りのない時間とはいえここは道だ。邪魔になるかもしれない。
自転車の持ち主に心の中でごめんなさいと謝罪した。
本当は口に出したい。だけど、動こうとしても首を動かすだけで気持ちが悪くて顔があげられなかったのだ。

「大丈夫か」

その人は道から少し外れたところにゆっくり自転車を倒すと、私の前に駆け寄ってきて目線を合わせるようにしゃがんだ。
漸く気分が少しましになってきて、顔をあげる。そこには隣のクラスで、1年の頃同じクラスだった福富くんがいた。



140118






<< >>

戻る


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -