放課後までに、本は第三章の終わりまで読み終わった。 さて帰ろうと準備をしていると、スカートのポケットが振動する。 見るともう慣れてきた八くんからのメールで、アドバイスのおかげで好きな人と話すことができたと書いていた。 その言葉に思わず口が緩む。何となく、特に意味はなく、東堂くんのほうを見た。 ニコニコしながら、クラスの委員長と会話している。 委員長と私は仲がいいけど、東堂くんとはあまり見る組み合わせではない。 昼間に少し感じた、東堂くん=八くん説を振り払おうとしていたものの、なんとなくそれができずにいた私はその光景をみて、もし東堂くんが八くんだったとしたら、その東堂くんが好きなのは委員長なんじゃないかと思った。 現にすごい笑顔だし。輝いてるし。 もしかして、東堂くんも私がななこだってことに気づいてるんじゃないだろうか。 だから昼休み話しかけてきて、探りを入れたんじゃ。 …いや、ないか。 まず東堂くん=八くんというのも憶測に過ぎないし、いくら同じ神奈川の自転車部で、同じような時間に練習が終わって、私がメール送信したあとにケータイ触ってたからって…。 こうやって共通点を考えてみれば意外と多かった。 でも、東堂くんなら好きな子にくらい平気で話しかけられるだろうし、八くんは人に相談できないと言っていたけど東堂くんならたくさん相談できる友達がいる。 今だって委員長に平気そうに話しかけてるし、随分と盛り上がってるみたいだ。 それに、自転車部員は東堂くんだけじゃない。 隣のクラスの福富くんだってそうだ。好きな女子に話しかけられないってイメージはないけど、意外とそういうこともあるかもしれない。 そう自分の中で決着付けて、本を仕舞って教室を出た。 授業が終わり、放課後になった。 暇がなくて出来なかった、好きな人と話せたという報告をメールに打ち出して送信する。 人に話しているとやっぱり気持ちが楽になるというか、アドバイスをもらえるのは勿論だが、オレの思いを他の人が知っているというのは予想以上に心強かった。 ななやまさんは帰り支度をしている。 後ろからつんつんとつつかれて振り返ると、同じ部活の藤原の彼女がそこにいた。 数日前から付き合い始めた二人を裏からくっつけようと奮闘していたのはこのオレだ。 同じクラスだったこともあり相談を持ちかけられ、藤原に彼女の話をしたところ脈がありそうだと感じて、協力した。 今までは藤原にバレたら面倒だからとこっそり作戦会議をしていたが、今はもうその必要はない。 藤原をデートに誘いたいという彼女に、一番近い部活の休みの日を教えた。 恋愛相談を持ちかけられることが多かったオレは何度もそれに乗っていたが、実際相談を持ちかけると、答えてもらえたときの安心感がいかに大きいかわかる。 オレにとってのななこちゃんのような安心感を、オレは藤原の彼女ちゃんに与えられているのだろうか。 その日の夜、ななこちゃんからメールがきた。 メールがくること自体はいつもと変わらないのだが、内容がおかしい。 やけに文章が暗いというか、少し混乱しているように見えるというか。とにかくいつもの彼女じゃなかった。 どうしたと言わないということは踏み込んではいけない場所なのかもしれないと思ったが、不安で思わず何かあったのかと尋ねる。 嫌がられないか心配だったが、返事は思ったよりあっさり帰ってきた。 お母さんとケンカした。その一文のみ。 高校三年生。何かと思うことの多い時期だし、進路関係でも衝突はあるだろう。 オレは幸運なことに自由にさせてもらっているし、寮に入っているからやんややんやと言われることはないが、一般的な高校生ならよくあることだと思う。 よくあることといっても本人が辛いことには変わらない。 何か相談に乗れないか、差支えがなければ話して欲しいと。そう送った。 140117 << >> 戻る |