ななやまさんと目があったことをきっかけに、部活後、ななこちゃんにメールをしてみた。 メールのやりとりの元々の目的、恋愛相談。 まだお互いのことはよく知らないから早いかと思ったが、ななやまさんと同じタイプの女子、ななこちゃんの意見を聞きたかった。 タイプの違う男子に話しかけられたらどうか。どんな風にして話しかけたらいいか。 ななこちゃん曰く困らないし普通に嬉しいと。そういうものらしい。 ななやまさんも同じ考えならいいのだが、果たしてどうだろうか。 翌日、学校へいくとななやまさんはいつもと変わらず本を読んでいた。 昨日の続きらしく、表紙は相変わらずフィルムに包まれた赤色だ。 その眼差しは真剣で、吸い込まれそうになる。 まつげが長いな。自分の座席に着いたまま頬杖をついてじっとななやまさんを観察した。 しばらくするとひと段落ついたのか、本についた紐のしおりを挟んで本をぱたんと閉じた。 それからケータイを取り出して、何かを入力する。 動作からして、多分メールだろう。 だれとメールしているんだろう。オレはななやまさんのメールアドレスを知らない。 また少しすると今度はオレのケータイが振動した。 ななこちゃんからだった。 朝の挨拶と、好きな人に話しかけられるようがんばってねと。八くんならきっと大丈夫、と。 ああ、申し訳ないななこちゃん。 オレはいま猛烈にヘタれて、今日もななやまさんの姿を観察するだけで終わってしまいそうだ。 物語は第二章を終えた。 中で繰り広げられる意外な事実や伏線回収に疲れて、パタンと本を閉じる。 朝から読むにはハードすぎる内容だな、と思った。肩が凝る。 それから、肩が凝る要因がもう一つ。 ばれないようにこっそりと、そちらへ視線を向けた。 東堂くん。頬杖をついてこちらを見ている…気がする。 自意識過剰なのだろうか。にしては、しっかり見てるというか。 その視線から逃れるように、誤魔化すようにケータイを開いた。 八くんとのメールは、昨晩のおやすみの挨拶で終わっている。私が寝てしまったのだ。 メールが来るだけで楽しくなってしまう私は、八くんに朝の挨拶と昨晩相談された好きな子に話しかける計画について書き込んで送信した。 ちゃんと話しかけられるだろうか。なんだか母親のような気分になりながらケータイを閉じた。 そのあと時間を持て余してどうしようかと思いこっそりと東堂くんを覗き見る。 後ろのポケットに手を突っ込んで何かを確認する動作。 東堂くんも誰かとメールだろうか。 今私が八くんに送ったところだから、タイミング的に私が東堂くんに送ったように見えなくもない。 いやいや、まさかな。 「ななやまさん」 「? 東堂くん」 その日、東堂くんが話しかけてきたのは昼休みだった。 友達が諸用で席を外したので暇つぶしにと本の続きを読んでいると、昼食から帰ってきたらしい東堂くんが私の机の前に立ち止まった。 それ、と震えたように見える指で示すのは赤い表紙の本。 「おもしろいかね」と、彼は言う。 「おもしろいよ」 「ほう、どんな本なんだ?」 「殺人事件の本」 そう言うと、東堂くんはギョッとした。 確かに、このイチゴの表紙からは想像つかないだろうな。 あらすじを話すと面白みがなくなってしまうから、内容は言ってやらない。 もしかして、朝見てたのもこの本に興味を持っていたんだろうか。 「東堂くん、イチゴ好きなの?」 「イチゴ?…っああ、好きだぞ!」 好き、とイケメンに目の前で言われると、対象がなんであれドキっとする。 いやいや、私はイチゴなんて可愛らしいものじゃないぞ。勘違いするな。 読み終わったら貸そうか?と照れがばれないように提案した。 貸すと言っても図書館の本だから又貸しはできない。 一度図書館に寄ってから…に、なるけど。 でも自転車部は忙しそうだし、難しいかなあ。 私は席に座っていて、東堂くんは立っているから自然に見上げる形になる。 すこし俯いた東堂くんは、借りようと言った。 好きな作家だから、興味を持ってもらえると嬉しい。 じゃあ読み終わったら司書さんに言っておくね、と言って会話は終わった。チャイムが鳴ったからだ。 140116 << >> 戻る |