夕食を食べ終わった頃にケータイを覗き見ると通知が来ていた。 やましいことがあるわけではなかったが気まずくて、一人隠れてケータイを開いた。 彼女のあだ名であろう呼び名と、敬語を外そうという提案だ。すぐに乗った。 ななこちゃん、というらしい。 少し話しただけだが、彼女に似合いの響きだと思った。 それから、特にとりとめないことを話した。 話題自体は面白みのない世間話だったが、彼女の丁寧な言い回しには独特の魅力があった。 こんな言い方もできるのかと、自分も文系ながら驚かされた。さぞ学のある娘なのだろう。 メールのやりとりはお互いが眠りに就くまで続いた。 八くんとのメールは楽しかった。 なんてことないやり取りをして、彼は私とは違う目線で世界を見ている人だと思った。 私が気づかないようなところに切り込んできたり、思いもつかない質問をしてきたりする。 何か面白い小説を読んでいる気分にさせられた。 私が寝落ちするまでメールは続いて、朝起きてメールを送ろうか悩んだ末、一言おはようと送ってみた。 登校して、教室に着いた頃に返信はきた。朝練だったらしい。 おつかれさまと簡単に送る。メル友なんて今までいたことがないから、どれくらいの頻度で送っていいものかわからない。 恋人同士でもないのに、頻繁すぎるかな。少し心配になる。 ちょうどその頃、同じクラスの自転車部の東堂くんが教室に入ってきた。 女の子と一言二言挨拶を交わして、荷物を置いている。 運動部の朝練ってどこもこんな時間に終わるんだな、と考えているとふいに東堂くんがこちらを見た。 (う、わ) 目があってしまった。 不自然に逸らしたから、嫌な思いをさせたかもしれない。 まず、ガン見していただけで気持ち悪いと思われたかも。 ごめんなさい、と心の中で謝ってから、友達が登校してくるまで図書館で借りた本を読むことにした。 美少女殺人事件と四人の女の子の本だ。 第一章が1/3ほど終わったところでケータイが揺れた。 八くんからだ。 『ありがとう!ななこちゃんも今は学校かな。オレは今日嫌いな生物があるから少し憂鬱だ』 生物。そういえば、うちのクラスも今日生物あるな。 まあ、時間割なんて同い年なんだからどこも同じものだろう。 『大変だね。ウチも生物今日あるよ。私は理系だから、結構好き。八くんは文系?』 割と無難な返事。生物が苦手なのか、理系全般が苦手なのか。 返事は本を手に取る間も無くすぐに来た。 得意教科は日本史で、理系が苦手なわけじゃないが生物だけ特別らしい。 日本史得意ってことは暗記系ができるのかな。歴史系の教科って、覚えることが多くて大変なんだよね。 いっそ八くんに教えてもらいたいな、とそんなニュアンスのことを書いて返信。 ちょうどそのとき友人が登校してきたので、ケータイはスカートのポケットに仕舞った。 140112 << >> 戻る |