返信は1時間後にきた。
アドレスからしてパソコンのフリーメールだったので、しばらく経ってからだろうなと思っていたら予想以上に早い。
よろしくお願いしますとこれまた丁寧な文と、ケータイのアドレスらしきものが添えられていた。
今後はこちらにメールしてほしいと、そういう訳らしい。
『返事ありがとう。返ってくるとは思わなかったので嬉しい反面驚きです。』
そういう冒頭から、自分のことを書いた。
オレは相手を関東の女子高生だと、相手はオレを同期の男子としか知らない。
神奈川の高校に通っていること、自転車競技部に所属していること、好きな子がいること。
簡単な文にしたつもりだが、随分と長くなってしまった。
宛先メールアドレスをさっき教えてもらったものに変えて、送信した。






返事はすぐに来た。
挨拶文と、彼の簡単なプロフィール。
自転車競技部、という言葉を見て胸が跳ねた。
校内新聞でよく目にする文だ。詳しくは知らないが、うちの自転車競技部は日本一らしい。
校舎に垂れ幕がかかっているのを何度もみたことがある。
うちの学校は自転車競技部一位なんですよと書こうとしたが、学校が割れては少し都合が悪いかなと思いうちの学校にもあるんですとぼやかして書いた。
それから、私のプロフィールも。
帰宅部で、読書が趣味なこと。私も同じ神奈川県民ですと。






次にケータイが鳴ったのは夕食の時間の少し前だった。
することもなく、巻ちゃんに電話しようか悩んでいた頃だったからちょうどいい。
相手の学校にも自転車競技部があると聞いて驚いた。
野球部やサッカー部と比べて自転車競技部のある高校は格段に少ない。
そりゃ金のかかるスポーツだから、高校生にやらせている親が少ないというのもあるのだが。
ハコガク以外にも、神奈川には幾つか自転車競技部のある高校がある。
神奈川で大きな大会があった頃の雑誌を引っ張りだしてパラパラ捲ったが、まだ知り合ったばかりなので学校の情報もなく検討がつかない。
学校を特定するつもりはなかったけれど、自分の所属する部活が相手の学校にあるとなれば、気にならないわけがなかった。
今の段階で聞くと引かれてしまうだろう。とりあえず今は驚いたと素直な気持ちだけを書くことにした。
それから、相手の呼び名。
本名だとあとあと面倒になるかもしれない。
あだ名も…山神やスリーピングビューティーだと、相手に引かれかねない。
オレを知っている人物なら納得が行くだろうが、相手はオレが美形なことを知らない。
恋に悩むうら若き少年と思っていることだろう。
それに、自転車をやってると言った以上山神といえばオレしかいないわけで、『山神 神奈川 自転車』と検索されてしまったら100%ばれる。
とりあえず文字るか、ということで、姉から時々呼ばれるあだ名、名前からとって八と呼んでもらうことにした。
これなら、バレないだろう。






夕食を終えてケータイを見ると、ライトが点滅していた。
自転車競技部に対する驚きの言葉と、呼び名の話。
確かに、お互い名前を知らなければ都合が悪い。
相手はあだ名のようだし、私は高校に入ってからは名前でそのまま呼ばれているので、中学の時のあだ名を書くことにした。
『すごい偶然ですね、自転車競技部なんてあまりないと思ってたのに。
あと、私のことはななことお呼びください。
それと、同期なんだし敬語はいらないよ。私もやめていいかな?』
ついでに、タメ口で話していいかと聞く。
たぶん大丈夫だ。相手は恋愛相談をしたいらしいし、それなら敬語より親しい話し方の方がしやすいだろう。
お風呂から上がる頃には返信がきているだろうか。ベッドにケータイを投げた。


140109






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