やってきたのは食堂裏の、人通りが少ないものの日はよくあたる開いた場所だった。 来るまでは無言で、いつも騒がしい東堂くんの後ろを私が歩いているだけでいろんな人からの視線が集まった。 段差に腰掛けて落ち着いてから東堂くんがケータイを取り出すと、見せるように向けられたのは電話帳のななこちゃんと書かれた画面で、本当に東堂くんなのだとようやく実感した。 もちろんそこに並ぶメールアドレスは私ので、その下には丁寧に最初に使ったフリーメールのアドレスも入っている。 「本当に、ななやまさんなのだな」 「…はい、そうです」 証拠を見せるかの如く、私もケータイを取り出して操作してから八くんから送られてきたメール一覧が並ぶ画面を見せた。 フォルダ分けしているので、そこには八くんという文字がずらりと並んでいる。 タイトルも文章も八くんから送られてきたものだ。 「ご覧の通り、です…」 「そうか…」 息の混じるこの声は落胆の声なのだろうか。 まさかお前みたいな地味なやつがななこちゃんだったなんて、と罵られるのかと一人勝手に身構える。 メールとはキャラを変えたつもりはなかったけど、ギャップというのは意図せず起こるものだから。 東堂くんの反応をうかがうと、こちらに顔を向けて、安堵したような、優しい笑みを浮かべてた。 「はは、ななやまさんがななこちゃんか。こんなことがあるなんてな、正直驚きだよななやまさん」 「期待はずれだったら…ごめんなさい」 「期待はずれ?そんなわけないだろう!むしろ、自分がいかに一途かを思い知ったよ」 やけにすっきりした顔の東堂くんは、隣に座った私の手をそっと握った。 突然のことに驚いて、いやどきっとして、肩が跳ねた。 驚きとときめき、二重の衝撃は心臓に負担をかける。 「知っているかもしれないが、改めて言わせてくれ、ななやまさん」 「は、はい」 迷いのない真っ直ぐな瞳。 こんなのに見つめられてドキドキしない子がいるならば、紹介して欲しい。 「好きだ。オレと付き合って欲しい」 そんな目で見つめられて何と言われるのだろうか。身構えていた力が一気に抜けた。 その反面、スカートを握る手には力が入る。 なんていった?好き?誰が? 「い、いいんちょう?」 「だからあの子がどうしてでてくるんだ!オレが好きなのはななやまさん、君一人だ」 ビシッと、ファンの女の子にするより近い距離で指差された。 状況が理解できない私を置いて、指差していたほうの手で私のスカートを握っていたもう片方の手も包む。 私の手の血管だけで鼓動が早いのがばれてしまうくらい、血の流れが速い。 「で、返事は聞かせてもらえないかね」 「へんじ…ですか」 「ああ」 東堂くんが、私のことを好き。 八くんが、私のことを好き。 今まで八くんが好きな人と話せないと相談してきたのは私のことで、私は八くんが私と話せるようになるためにアドバイスをしていたのか。 そういえばあのメールをした翌日の昼休みに話しかけてきたんだっけ。 そう思うと、笑えてきた。 八くんには好きな人がいるからダメだって思ってたのに、結局それも私だった。 私が私に嫉妬してどうするんだ。思わず口から笑いがこぼれた。だって、こんなの偶然にもほどがある。 「八くん、いや東堂くん」 「ああ」 「私も、好き。メールでしかまだ知らないけど、これからいっぱい東堂くんのことを知って、もっと好きになりたいよ」 「…それは、本当かね」 「ほんとう、です」 抱きしめられたと理解するのにあまり時間はかからなかった。 背中に回された熱のこもった腕が気持ちよくて恐る恐る抱きしめ返すと、密着した胸元に東堂くんの鼓動を感じた。 「ずっと好きだったよ、ななやまさん」 「ありがとう、ございます…」 「メールしたのがななこちゃんでよかった。まさかななやまさんだとは思わなかったがな」 「私も、八くんが東堂くんだとは思わなかった…」 予鈴がなってゆっくりと体を離してからさっききたばかりの教室への道を戻る。 今度は並んで、手を繋いで。 140127 << >> 戻る |