朝、ななやまさんが体調を崩しているのを見てから、オレの心にはもやもやしたものがずっと残っていた。 こういうときはななこちゃんとメールをしていれば気持ちが楽になるのだが、そのななこちゃんからの返事がない。 向こうも学生だし、時間割によっては忙しくて返せないことはある。 オレだってそういうことはあるし、それでも大抵昼休みには返ってきていた。 昼休みも立て込んでいたのかと放課後まで待ったが、返信は来ず。 サイクルジャージに着替えて練習が始まるギリギリまでメールを待った。 荒北に怒鳴られて仕方なく部室を出る。 集中できなくなりそうだったからケータイは置いていったが、結局それは無駄で、集中できていないと何度もフクに注意されるはめになった。 朝のメールを読み返したが、変なところはない。 知らないうちに気に障るようなことを言ってしまって、嫌われたのだろうか。 ななこちゃんに送るメールは人一倍文章に気遣っていたというのに。 肺のあたりがきりきりと痛んだ。オレらしくもない。 「なぁ尽八」 「ん、なんだ」 部活が終わって、部室を出ると既に外は暗かった。 時刻はまだ8時に至っていない。 今でも十分真っ暗なのに、8時に帰ってくるなんて危ないぞとななこちゃんを想った。女の子の一人歩きは心配だ。 オレがななこちゃんの友人なら、一緒に本屋へ寄って家まで送ってやるのに。 今日もどこかへふらふら歩いて行ったりしていないだろうか。メールしたくなる衝動に駆られて、それを抑えた。 隼人に話しかけられて、自分が酷い顔をしていることに気づく。 見せられたケータイのインカメラには、美形らしからぬ顔をしたオレがいる。 失恋でもしたのか?と冗談半分に笑いながら背をたたかれて、涙が出そうになった。 「あながち間違ってはいないかもしれん…」 「え?!」 マジかよと、そう返ってくるとは予想もしていなかったのだろう驚きを隠せない顔で呟く隼人を見上げる。 3cmしか変わらないのに、見上げるのはオレが俯いて姿勢も悪くなっているからだ。 ななやまさんのことは好きだ。これは自信を持って言える。 可憐だし、見ていて癒されるし、少し話せただけで舞い上がりそうなくらい嬉しいし、ドキドキもする。間違いなく恋心だ。 なら、ななこちゃんはどうだろうか。 なにかすれば心配になるし、親身になってオレの相談を聞いてくれるといい子だなと思う。 話していると楽しいし、メールがくるだけで嬉しくなって、こうやって返信が来ないだけでそわそわする。 きっと人に話せば、その子のこと好きなんだろと言われるだろう。 二股、という文字がオレの頭を過ぎった。いやいや、このオレが? 一途さには自信があった。ななやまさんを好きになってから、他の女子に余所見したことなんてなかったのに。 血の気が引いた。まさか、それをななこちゃんに見抜かれていたんじゃ。…そんなわけないよな? 青い顔のオレを隼人が心配そうに覗き込む。 「どうしたんだよ尽八マジで。お前らしくない」 「そうだ…オレは山神なんだぞ…」 「お、おお…」 「…隼人、二股ってどう思う」 「二股?おめさん、二股してんのか?やめたほうがいいぞ。いいことない」 「経験者みたいな口ぶりだな」 「嫌なこといわないでくれよ」 はははと乾いた笑いを返す。笑える気分なんかじゃない。 確かに、ななやまさんに雰囲気が似た子だと思ってななこちゃんとメールを始めた。 だけど、これじゃダメだろう。 もしかしてオレはああいう、真面目だけどすこし危なっかしくて、丁寧なタイプの女の子だったら誰でもいいのか? それを言うなら委員長だってタイプで言えばあまり離れていない。 だけど、委員長のことはそういう目で見たことがないし、どうこうしようなんて思ったこともないのだ。 仲がいいと聞くからそれとなくななやまさんの話を聞いてみて、「東堂くんもしかして」と少し怪しまれ冷や汗をかいたくらいだ。 「まぁなんだ。ウジウジ悩むよりさ、とっとと言ってスッキリするタイプだろ、おめさんは」 「隼人…」 「正直そうやってるよりもウザいくらいに笑ってるほうが似合うぜ」 バチンとウインクひとつ。それから、食う?と差し出されたパワーバー。 何かがすっと降りた気分だった。 ウザくはないな!自分を元気付けるように態と大きな声を出して、パワーバーをひったくった。 チョコレート味。悪くない。 そうだ、オレには頭の中でごちゃごちゃ考えて悩んでいるよりも、ストレートに行く方があっている。 帰ったらメールをしよう。ななこちゃんに。 それから、はっきりさせる。それしかない。 オレが誰を想い、誰を好きなのか。 いつものように高笑いすると、荒北に怒鳴られた。今はそれさえもオレの背中を押した。 140123 << >> 戻る |