風がびゅうと吹き抜け、髪が乱れ舞う。
普段よりも重い荷物を持って、私は階段を登っていた。
向かっているのは教室だ。今日は私の誕生日で、友達がお祝いにとカフェを予約してくれていたから放課後そこに寄ることになっていたのだけれど、校門を出たところでケータイを教室に忘れたことに気がついた。
予約してるんだから早くとって来なさいと言われて一人廊下を走り、教室の前まで辿り着く。
ゼエハアと乱れた息が誰もいない教室に響いていた。机の中に入れっぱなしになっていたケータイを取り出すと、メールが一件。中学の頃の友達からのお祝いメールだ。
後で返そう。スカートのポケットにケータイをねじ込み、付けっ放しになっていた教室の電気を消す。
パチンと気持ちのいい音がして、部屋の明かりが数段暗くなった。窓から差し込む日光のせいで、まだ暗いとはいえない。
後ろのドアの内鍵を閉めてから前のドアから教室を出る。鍵はないから、きっと担任が閉めにくるだろう。
ピシャンとドアだけを閉めてつま先90度回転させると、目の前にひとが現れた。現れたのではない、最初からいたのだ。私が向きを変えて初めて気づいただけ。

「荒北」
「よォ」

クラスメイトの荒北だった。
忘れ物でもしたのだろうか、部活のジャージ姿でそこに突っ立った荒北は、コンビニの袋を腕に引っ掛けていた。
忘れ物?尋ねながらドアを開けようとすると、制止の言葉をかけられ、手を止める。
一歩二歩と荒北がこちらへ近づいて来た。私たちはただのクラスメイトで、割と話すから友達とは言えるのだろうけど(荒北はそうは思っていなさそうだけど)、こんな近距離で話す仲ではとうていない。
驚いて半歩後ずさる。荒北は頭をがしがしと掻いてから、コンビニの袋を私の前へ突き出した。

「え、なに?」
「やる」
「え?え?」
「一日中騒ぎやがって、うっぜーんだヨ」

何のことだ。頭にはてなを浮かべながらもとりあえず手渡されたビニール袋の中身を見た。
白い袋で、表面に単色でコンビニのロゴが印刷されている。
中には、私の好きなキャラクターのお皿が入っていた。確かこれ、パンについてるシールを集めたらもらえるやつだ。私はいつもお弁当だから欲しいのにパンを買う機会がないからと諦めていたのに。
どうしてこれを荒北が?はっと顔をあげると、荒北が気まずそうに目を逸らす。

「一ヶ月くらい前にさァ、ギャーギャー言ってただろうが、これ欲しい欲しいって」
「いっ…てたっけ?」
「言ってたヨ」

これが欲しかったのは事実だけれど、そんなに騒いだ記憶はない。て言うか、一ヶ月前のことなんか覚えてるわけない。

「よく覚えてたね」
「っせ、いらねーなら返せ」
「いる!」

皿を箱ごと、ビニールごと抱きしめ返してやらないと言わんばかりに半身を荒北から逸らすと、荒北が鼻で笑う音が聞こえた。
荒北の靴が廊下とぶつかって、音を立てる。じゃーなと手を振ると、荒北は廊下を歩いていった。あっけない別れであった。

「あ、荒北!これ、ありがとー!」

ラッピングはコンビニ袋、プレゼントはサービス品のお皿。色気もクソもないけれど、素敵じゃないか。
遠くに小さくなった背中に向かって、そう叫ぶ。荒北の手がひらりと宙を舞った。
今日もらったプレゼントの詰まったカバンを開き、そこに大事に袋ごとお皿を仕舞う。少しだけ重くなったカバンが、愛しく感じた。






「っていうか、荒北はよく覚えてたね」
「え?」
「その皿よ!一ヶ月前のことなんてさ、普通覚えてないって」
「うん、それはびっくりしたけど」
「だから、荒北って…やっぱアレでしょ?なまえのこと好きなんでしょ?」
「ぶっ……そ、それはないよ!」
「なんでよ」
「だ、だって、私たち友達だし」
「友達から恋人になるって、よくあることよ」
「ええ……」
「まあなに、荒北にとってあんたは、ただのクラスメイトの女子じゃないってわけ。それ、覚えててやんなさい。そのお皿手に入れるのに、5000円分以上パン買ったんだから、ね!」






椎野ちゃん誕生日おめでとう
遅刻してごめん うpるのわすれててん
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