「お、みょうじさん。いつもご苦労さんやなあ」
「石垣先輩!すいません、お邪魔してます」

へへへ、と抜けた笑顔で両手にタオルとドリンクを抱えた彼女…みょうじさんは、うちの部のマネージャーでもなんでもない。
『御堂筋のファン』を自称するみょうじさんが練習を見に来るようになったのはいつからやろうか。気づいたときにはおったけど、ゴールデンウィーク前はまだおらんかった気がする。
最初のうちは練習でよく走る道に突っ立っとっただけやったのに、いつからかオレに許可を取ってマネ業の真似事をしたり、差し入れをするようになった。
オレたちがどう思ってるか?もちろん、大歓迎や。
御堂筋のファンや言うのはよおわからんけど、みょうじさんはよく気がつくし差し入れもオレたちのことをよく考えたものをくれるし、何よりも笑顔がカワイイ。
ノブなんかいつも鼻の下伸ばしてタオル受け取ってるし、辻も井原もデレデレや。
まあ今までうちの部にはマネージャーがおらんかったから、浮かれてしまうのもしゃーないことやと思う。オレやって、ちょっとええな、て思ってるし。
で、その応援されてる当人の御堂筋といえばや。
お疲れ様とみょうじさんがとびっきりの笑顔でタオルやら補給のドリンクやらを渡してるいうのに、全くの無反応。ありがとうの一つもなしや。
こうされるのが当たり前みたいにそれを奪い取って、そのあとはみょうじさんのことを見もしない。
どうなんやそれはと一度聞いたことがあったけど、答えは「せやからなんなん?」と冷たいものやった。
せっかく好意持って応援してくれてんのに、なんやねん。
ちりちりとした怒りにも似た感情がオレの胸に沸いたけれど、それをどうにかする資格はオレにはない。
眉を顰めたオレの背中をジャージ越しにみょうじさんが叩く。
見下げたそこにはいつもの笑顔があって、少しくらいかなしそうな顔をしてもええのに、幸せそうに笑っとった。

「ええんか、みょうじさん」
「はい、ええんです」

好きな奴を応援するために毎日夕方まで残って、せやのに相手にもされへん。
悲しいんちゃうか。苦しい片思いをしてるんちゃうか。
そう聞いてもみょうじさんはへらりと笑って「大丈夫です」と言うだけや。
なんでこんなええ子を御堂筋はほっとくんやろ。
アホや、あいつ。男やないんちゃうか。そう思ってしまうくらい。

「みどうくんは勝つことだけを考えてくれてたらええんです、せやから私のことなんて」

二つも年下やのに、その横顔はめちゃくちゃ落ち着いて、大人の女言う感じやった。
なんやろう、片思いいうよりは…見守ってる、いうか。

「なんやみょうじさん、その…あれやな」
「ん?なんです?」
「御堂筋のお母さんみたいやな」

息子を見守る母親と、反抗する思春期の息子。二人の姿はまさしく親子のそれや。
なんやろうな、これ。はははと笑って言ったのに、みょうじさんも顔は笑っているのに、どこかさみしげで。それこそ、御堂筋に無視されてもそんな顔しやんかったのに。

「石垣先輩、それ、絶対みどうくんに言わない方がいいですよ」
「なんでや?」
「命が惜しかったら…なんちゃって」

唇から出た舌が赤い。それを見た途端、「逆らったらあかん」そう言われてる気がして。







好きな人がいた。名前は御堂筋翔くん。
「あきらってどんな字書くの?」「翔けるいう字」「ふうん」これが最初にした会話。小学一年生だった私は『翔ける』という字がわからんかったけど、この会話以来、私はみどうくんと話すことが増えて、あんまり女の子が得意やなかったみどうくんも私には気を許してくれるようになっていた…と、おもう。

みどうくんはお母さんが大好きやった。
今入院してんねん。そう話すみどうくんの口角は上がっていて、目はきらきらと日を受けてきらめいてる。
優しくて、料理上手で、美人なお母さん。
そんなにお母さん好きやなんて、マザコンいうやつちゃうんかって思ったこともあったっけ。
私とおってもみどうくんお母さんの話ばっかり。そう言うたら、みどうくんは私をバスに乗せて病院へ連れていってくれた。
みどうくんのお母さんは噂に聞く以上の美人で、優しくて、いい人やった。
あきらをよろしくな、握られた手は細くて白くて、どっかいってしまいそうで。
そんなお母さんを見てると、なぜか私が泣きそうで。

「いつもは自転車でくるねんけど、みょうじは自転車持ってへんやろ」
「持ってるよ」
「ママチャリやん」

おじさんに買ってもらったというみどうくんの自転車はカゴがついてなくて、サドルの位置が高かった。
ちょっとだけ乗してもらったこともあったけど、フラフラして上手いこと進まれへん。
こんなんにのれるみどうくん、すごいなあ。素直な気持ちを伝えるとみどうくんは笑ったけれど、みどうくんがお母さんの話をしてるときに比べたら、ぜんぜん。

「みどうくん、お母さんのこと好きやねんな」
「……うん」

好きや。そう言ったみどうくんの自慢の歯が、夕日にキラリと反射する。
確かこの日や。私がみどうくんのことが好きやと自覚した日。それから、みどうくんのそばにずっといようと決めた日。

お母さんが亡くなって、みどうくんの周りに人がいなくなっても、私だけはずっと近くにいる。ずっと、ずっと。





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テーマは御堂筋くんと片思い
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