呼びかけようとして、挙げた手がつい止まった。
ずっと見てきた後ろ姿、髪を切っても間違えることのない背中なのに、他人ならいいと願ってしまったのは、隣に並んだ、彼女より頭一つ分高い背の男の姿があったからだ。
目があって、笑顔で駆け寄ってくる先輩とその後ろに着いてくる男、恐らく先輩と同級生だろう。
いつもは可憐な先輩の笑顔を見てにやけてしまうのに、今は後ろの男から目が離せない。
先輩が話しかけてくれていることに気づかず、目の前で手を振られてはっとした。
取り繕うと、先輩は何も疑うことなくいつも通りオレの頭を撫でる。
「誰?後輩?」
「うん、黒田くんていうの。えーっと、ユキくん、こちら私のクラスメイトの田中くん」
先輩の手前、軽く頭を下げた。
ヘラッと笑って片手を挙げた男に殺意すら湧く。なんでこんな奴が先輩と?
オレの前で話始めた二人は仲睦まじいカップルのように見え、握りしめた拳、手に爪が食い込んだ。
「先輩」
「ん?なに?」
先輩と男の会話を遮って話しかけても、先輩は嫌な顔一つしない。
「その人、もしかして…彼氏、ですか」
先輩、アンタはオレが何を考えて今まで先輩と一緒にいたか、知らないんだろうな。
ツイネタより
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