昼間に買って食べきれず、寮で食べようと置いていたパンを教室に忘れたことに気づいたのは授業が終わった一時間後。
すっかり部屋着に着替えてしまった体を起こし、あとで洗濯機に入れに行こうとしていた脱ぎっぱなしのシャツを着る。
スカートのホックを閉めて寮を出て、自転車で全速力。
せっかく寮なのに、妙に距離があるのはなぜなのか。
この時間ならまだ施錠されていないだろう。
職員室へ寄らずに教室へ向かったが、ドアはすんなり開いた。ビンゴ。
蛍光灯の着いていない教室はまだ日が落ちていないのに薄暗い。
適当に鼻歌を口ずさみながら自分の座席へ。横のフックにはちゃんとビニールがかかっている。
よかった、さて帰ろう。
引き返そうとした時、教室角の座席に誰かが座って伏せていることに気づいた。
誰もいないと思っていたのに。
活字にするとホラー映画のようだが、伏せている人には心当たりがある。
赤茶色の髪はこのクラスに一人しかいない。新開くんだ。
自転車部といえば今頃外を汗だくで走り回っているというのに、なぜここに。
横わけの髪の隙間から見える目は閉じられている。
恐る恐る近づいた。目を覚ます気配はなく、すやすやと寝息を立てて気持ち良さそうに眠っている。
ちょっとした好奇心だった。
さらさらの、私とは色も質も違う髪に触れてみる。
ただのクラスメイトにこんなことしているなんて、変態だ。バレたら普通に嫌われるな。
思っていたよりふわふわなそれは、動物の毛のようだった。実家で飼っている犬はミニチュアピンシャーだから、らこんなにふわふわしていないけれど。
…まつ毛、長いな。
いやいや、何見てるんだ私。正真正銘の変態になる前に…じゃなくて、新開くんが起きる前にここを立ち去らなければ。
名残惜しいけれどふわふわの髪からそっと手を離して、じゃあねと小声で呟いて教室を出ようと方向転換。

「え」
「おはよう、オレの髪の触り心地はどうだった?」

掴まれた左腕、ニコッと笑った新開くんは寝起きの顔じゃない。
青ざめた私を見て新開くんは笑みを深くした。
腕を引かれバランスを崩すと、新開くんに距離が近づく。
左腕を掴んだのと逆の手で髪に触れられ、手櫛のようにすいた。

「へっ?!」
「やられっぱなしは趣味じゃなくてね」

さらさらだな。
結局その日は私のシャンプーの匂いが新開くんの手につくまで触られていて、寮に戻ったのは六時過ぎだった。
なぜあの場所に新開くんがいたのかわからないまま、もう二度と人の髪の毛は勝手に触らないと自分の中で誓いを立てたのだった。






短編にしようと思ったけど短すぎたので
二年新開さんはウサ吉母のあれこれでさぼりっち
戻る

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -