その日はマキちゃんが職員室に用があるとかで、一緒に帰るために待っていた。
最初は職員室前にいたのだけど、長引くかもということで教室に帰って来たのだ。
だって、知らない人がたくさん通る職員室前で10分も20分も待つのは苦痛すぎる。
マキちゃんを待つのは苦にならないけどそれはちょっと嫌だ。

教室に戻るとその日の掃除当番は隼人くんの班だったようで、さっさとホウキで教室を掃いていた。
先週の掃除当番が雑だったのか、教室の端にはホコリが溜まっている。

「ハヤデレラ、キレイに掃除してよね」
「わかりました、お姉様」
「あはは、隼人くんかわいい」
「かわいいよりかっこいいって言われたいんだけどな」

シンデレラごっこ。
本当はホウキじゃなくて雑巾でやりたいところだけど、雑巾掃除は当番制掃除には含まれていなかった。
私は特に掃除を手伝うでもなく、隼人くんが言われたとおりキレイに掃いているのを誰かの机に座って眺めていた。
ホコリが舞い上がる。空気がよどんでいるな、と思った。
換気が必要だ。掃除に換気は欠かせないってテレビで言ってた。
机の上から退いて窓の前へ足を運ぶ。
上から下に下げるタイプの鍵を開けて、ガラッと窓を開け放った。
ぴゅう、と風が吹き込む。気温は低くないものの、風は冷たい。

「さむ!」
「あ!ホコリが飛んだ!なにしてんだよー」
「ごめんごめん、だって換気…」

クラスメイトの文句に笑って返して、窓を閉めようと思ったときに、気がついた。
その足元の黒色に。

「ヒッ」

ガサ、と動く。
黒くて、動くもの。床にいる、3~5cmのもの。

「ぎゃあああああああああああああああああっ」
「うおっ」
「まっ、ちょ、やだ、ご、ごき」
「ど、どうした?」
「はっはやとくんホウキでたたいてホウキで!ほーうーきーでー!!!」

一心不乱ですぐそばにいた隼人くんに抱きついた。
抱きつくというか、抱っこを強請る子供のように首にしがみついた。
正直ヤツと同じ地面を踏んでいたくなかったし、普通に抱きかかえて欲しかったのかもしれない。
しかし隼人くんの右手にはホウキ、左手にはちりとりがあったのでそういうわけにもいかず隼人くんは突然抱きついてきた私におろおろするばかりだった。

「落ち着け、落ち着けって」
「ムリムリムリこれが落ちつけるわけないホントに無理」
「いやだから、ホコリだって」
「やだやだやだやだホコリこわ……ほ、こり?」

恐る恐る振り返る。
動いて出てきたようにみえたそれは、私が開けた窓から吹き込んだ風で飛んだホコリだった。
拍子抜けして、隼人くんの首に回していた腕の力が抜ける。
同時に腰も抜けたのか、教室の床に座り込みそうになるもののそれは隼人くんが腰に腕を回すことで免れた。

「っ…ほ、ほこり…?」
「ゴキブリだと思ったのか」
「う、うん…」

はあびっくりした。
よく考えればそんな学校にホイホイゴキブリがでてくるわけがなかった。しかもこんな教室に。
たしかゴキブリって水周りに出るんだよね。あー怖かった。死ぬかと思った。

落ち着いてから、状況を整理する。
私は隼人くんに腰を支えられたまま体重を預けていて、彼のシャツを掴んでいた。
周りから見れば、カップルがいちゃついてるようにしか見えないわけで。

「隼人くん!!!」
「ん?」
「ん?じゃない!離して!!」
「抱きついてきたのはおまえさんだろ?」
「それはびっくりしただけだから!ほら!皆見てる!!」
「…あんたらなにしてんの?」
「ああマキちゃん!こわかった!怖かったよマキちゃん!かえろかえろ帰ろー!!」

隼人くんの胸を押して腕をすり抜け、机に置きっぱなしだった机を片手で引っつかんで、職員室から戻ってきたマキちゃんのいる教室の入り口へと走る。
マキちゃんに抱きつくとはてなをいっぱい浮かべて、さっきの隼人くんみたいに腰に手を添えてくれた。

「じゃあね隼人くんばいばい!ばいばい!ばいばい!」
「あ、ああ…ばいばい」

力一杯隼人くんに手を振ってから、マキちゃんの手を引いて廊下を走る。
恥ずかしくてこれ以上あの場にいたくなかった。



「…新開、ドンマイ」
「おう…」




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