ジェーケースリーラストオータム・上










隼人くんにジャージを貸してもらったあの日から4ヶ月が経った。
私と隼人くんはすっかり仲良くなっていて、隼人くんのお友達の福富くん、荒北くん、イケメンで有名の東堂くんとも知り合った。
インターハイも見に行ったし、二人で休みの日に出かけたりもした。

インターハイの後、オレのこと嫌いになった?と電話がきた。
きっと隼人くんが言っているのは二日目のあのレースのことで、後に福富くんから隼人くんは箱根の直線鬼なんて異名があると教えてもらった。
確かにあの時の隼人くんはちょっと怖かったし、というか競争相手の人も怖かったし、まずレース自体全体的に怖かった。
自転車のレースを見たのはアレが初めてで、今まで味わったことない緊迫した雰囲気に観客の自分さえとりこまれそうになった。
…でも、それだけ真剣に走ってるんだってことが伝わってきた。
運動部に入ったことない私が言うのもなんだけど、熱くなれたし、いいレースだったと思う。
そう伝えたら、隼人くんは電話越しに安心した風に笑った。
3年だからもうこれでしばらくしたら引退、もうレースに出ることは高校のうちはないかもしれないけど、また隼人くんの走ってるとこを見たい、そう思った。


「で、まだあんたら付き合ってないの」
「だから隼人くんは友達だからそんなのじゃないってば!」

そして最近、私は毎日のようにマキちゃんからこのことについて問い詰められていた。
普段はマキちゃんとお昼を食べるけど、たまに私は隼人くん、マキちゃんは亮太くんと食べるようになった。
ちなみに今日はマキちゃんの日。
私はたった一人の男友達だから隼人くんと仲良くしようと思っていたのだけど、どうやらマキちゃんは違ったらしい。

私と隼人くんの関係を勘繰っている。

「どう考えても周りから見たらカップルだって」
「違うって、仲良しだよ。あ、でも一番はマキちゃん!」

マキちゃんに抱きつくと「うるさい」と手でのけられた。世知辛いよマキちゃん。
隼人くんと仲良くなるたび、マキちゃんの私への愛が薄れていっている気がする。
距離ができたわけじゃないけど、いや距離は日に日に私の中では縮まってるけど、扱いが雑になってる!
悲しいよマキちゃん、私はこんなにマキちゃんのこと好きなのにな。
唇をとがらせるとデコピンされて、大人しくマキちゃんからは離れた。

「そうだなまえ、文化祭どうすんの?」
「文化祭?」
「そ、もう一週間でしょ」

そういえばそうだったなと思い出す。
どうするってどういうことだろう。
うちのクラスは劇をするとかで、文化委員の子が張り切っている。
演目はありきたりだけど、白雪姫だ。
ちなみに私とマキちゃん、隼人くんは裏方でちまちま衣装やら小道具やらを作っていた。
最初隼人くんは王子様役に推薦されていて、かっこいいし背もあるし、きっと似合うだろうなと思っていたけれど辞退してしまったのだ。
「好きな人だけの王子様になりたいんだ」とかバキュンポーズをしながら意味不明なことを言って、女子から「かっこいー!」なんて冗談半分ときめき半分な声をもらっていた。
こういうことを出来るのは、やっぱり一定の人望がある人間だけだと思う。
私がしてもシラけるだけだ。…かなしい。

結局、王子様役と白雪姫役はクラス公認の1年の頃から交際しているラブラブカップルが選出された。
彼女は色白で小柄で可愛らしいし、彼氏も少し頼りない印象があるものの優しくていい人だ。
きっと素敵な劇になるだろうなと、私はマキちゃんと白雪姫の棺桶にばらまく花を作りながら思っていたのだった。

そんなわけで私とマキちゃん、隼人くんは当日することはない。
一応自分のクラスの劇は見届けるつもりではあるし、他のクラスの友達の出し物や泉田くんのクラスにも顔を出す予定ではあるものの、はっきりとした予定は決まっていなかった。

「なにしようか。マキちゃん、たしか2年にクレープ屋さんするとこあるんだよね行こうよ」
「…あんたなに言ってんの?」

バカじゃない?みたいな目で見られた。…やっぱり最近冷たいよ。
私はマキちゃんと一日回るつもりでいたのだけど、どうやらマキちゃんはそうでないらしい。
となると、亮太くんだろう。
…え、じゃあもしかして私ぼっち?

「や、やだよ見捨てないでマキちゃん、私一人で回りたくないよ」
「だからなに言ってんの…」

さっきと同じようにマキちゃんに抱きついて、腕を絡める。
涙目で見上げると、今度は引き剥がされなかった。
そして、「なまえは新開くんと回るんでしょ?」と言う。…隼人くん?

「違うの?」
「え、いや、わかんない」
「誘ってないの?」
「誘ってないってか、私マキちゃんと回るつもりだったもん…」

亮太くんなら仕方ないけど、先に言ってよマキちゃん…。
私、ばっちり今年もマキちゃんと回るつもりだったのに。
ていうか今言っても、隼人くんは私と違って友達が多いし、先約があるかもしれない。
福富くんとは中学から同じで特に仲がいいようだし、「トミー一緒にまわろうぜ」「ああいいぞ」みたいな会話を今頃してたりして。どうしよう!

「ど、どうしようマキちゃん私一人は嫌だ最後の文化祭なのに」
「電話でもしてつばつけときなさいよ」
「そ、そうする」

さ行の上から二番目、新開隼人の文字の下に並ぶ電話番号を押した。
今日は自転車部の同級生の人と食べてる、と思う。
3コールで機械的な音は途切れて、もしもしと隼人くんの声が聞こえてきた。

「も、もしもし隼人くん」
「めずらしいななまえ、何か…ちょっ、尽八やめろ、」

電話の向こうから騒がしい声が聞こえる。
このちょっと高い声は東堂くんだ。「誰だ新開みょうじちゃんか?!」と聞こえる。
うるせぇ!と騒いでいるのは荒北くんで、これは本人には言えないけど、あの人自身が一番うるさいと思う。

「ごめんなまえ、で、どうしたの?」
「あの隼人くん文化祭なんですが」

いざ切り出すとなると、変に畏ってしまう。
そういえば、隼人くんにこういうお誘いをしたことがなかった。
前に遊んだ時は隼人くんのお誘いだったし、インターハイ観戦も当然隼人くんからだ。
日頃仲良くしていても、やっぱりこういうのは緊張する。
マキちゃん相手だったらそんなことないのにな。

「文化祭?ああついさっきその話してたな」
「え」

つー、と冷や汗が頬を伝った。
その話してた、ってことはもしかして今さっき、「新開一緒に回ろうではないか」「いいぞ尽八」みたいな会話をしたとこってことなんだろうか?
ってことはやっぱり私ひとりぼっち…?
出遅れたかもしれない、どうしよう。
さすがに自転車部の面々で回るなら、そこに混ぜてもらうわけにはいかない。

「あの、もう先約があるなら…」
「先約?ああそうだなまえ。もしマキちゃんと約束してないなら、一緒に文化祭まわらないかい」

え!と予想以上に大きな声が出た。
まさか、そっちから言ってきてくれるとは。
後ろで「言ったな新開!」と東堂くんの声が聞こえる。
マキちゃんと回るのか?と聞かれて、違う違うと電話なのに首を振って全否定した。
マキちゃんが視界の端で吹き出したのが見える。くそ!

「い、いや、あの、私も今隼人くんに誘おうと思って、それで!」
「そうだったのか、ならちょうどよかった」

じゃあよろしく、と四ヶ月前のあの日みたいに言われた。
今度は手は差し出されてない。電話越し。

「そういうことだから!じゃあね、切るね!」
「ああ、また後で」

ぷちっ、ツーツーツー

「で、どうだった?」
「いいって!」
「よかったわねー、ぼっち回避」

うるさい!とマキちゃんの横っ腹をつつく。あまりの細さに自分と比較して悲しくなる。
ていうか元はと言えばマキちゃんのせいなのに!
でもやっぱり亮太くんとの仲は邪魔できない。悔しい!

「進展あったら教えなさいよ」
「そんなのないから!」

マキちゃん、まだ諦めてなかったみたいだ。





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