白い日赤い日 2





「っもー、そろそろやめてよ!」
「だって、っくく、マジで…!」

注文した飲み物が到着しても、隼人くんは笑い倒していた。
何でも私の意味不明な「隼人くんカッコイイ」発言がツボに入ったらしく、腹を押さえ前かがみになりながら、目じりに涙を浮かべて苦しそうにしている。
私はといえば、何故あんな言葉が無意識に口から滑り出たのかもわからず混乱していたというのに、これだけ笑われてしまっては恥ずかしくなるというものだ。
だって、本当にそう思ったから。意識したとかそういうのではなく、本当に自然に。

「もういいよ、隼人くんには一生かっこいいとか言わない」
「それって一生一緒にいてくれるってことか?」
「ッ!」

思わずメロンクリームソーダに刺さったストローに空気を吹き込むところだった。
ゲホゲホとむせる私に、隼人くんが意味深にバキュンポーズを決める。
さっきまでかっこいいなんて思っていた目が片方閉じられたさまには、今では憎たらしさ・ウザさ・鬱陶しさしか感じない。
眉間にシワを寄せた私を見て「ヤバイ」と思ったのか、隼人くんの片眉がピクリと動くがもう遅い。
目の前にあったチョコバナナサンデーに刺さった厚さ1cmほどのチョコブラウニーに手を伸ばすと、隼人くんが声を上げるより先にそれを奪い取り、口に含んだ。
高いだけあって、たかがブラウニーといえど美味しい。なんていうか、すごく濃厚で“チョコレートを食べている”って感じがする。
わざとらしくほっぺたを押さえ目を細める私に、隼人くんがため息をついた。
ガチで落ち込んでいるのか、その目はどこか寂しげだ。そんな顔をされると、罪悪感を感じてしまう。

「あ、あの…これ、アイス…ちょっといる?」
「…いいのかい?」
「うん…」

落ち込んでいる隼人くんにスプーンと共にメロンクリームソーダを差し出す。これだけ落ち込んでいるから、アイスをまるっと食われても何もいえないかもしれない。
バニラアイスは好きな方なので食べれなくなるのは残念だけれど、もともと私が頼んだわけでもないし。
そう思っていたが、隼人くんはスプーンに手を伸ばすことなく大きく口をあけた。わざわざ目を閉じて、まるで「あーん」を催促するように、だ。

「…」

私がアクションを起こさないからか、隼人くんは片目だけを開けて、ついとメロンクリームソーダを指差し「食べさせてくれよ」なんて言いやがった。何を言っているんだこの人。
程よく暖房が聞いているせいで、少しずつアイスが溶けかけている。私はメロンクリームソーダが少しとけて、炭酸が甘くなったのが好きだ。だからそれはいいんだけど。

「もう付き合ってるんだから、いいだろ?」
「!」

思い出すのは文化祭のこと。そのつもりはなかったけれど、形式的に隼人くんに(あーん、とは言っていないが)パンケーキを食べさせたことを思い出す。
あの時は色々ウルサい隼人くんを黙らせるためだったけど、今回は違う。意味を持って、しっかりと、確実に、あーんさせるのだ。

「人前で…」
「なまえがオレのブラウニー食ったからなあ…」

もともとは隼人くんが余計なことを言ったから、と言いかけてやめた。埒があかない。
第一、これくらいなんだっていうんだ。たかが人に食べさせるだけじゃないか。マキちゃんとはよくやっていたし、隼人くんにも一応やったことはあるんだ。なんてことない。そうだ、大丈夫。

「…口あけて」
「あーん」

わざわざ言うなよ。頭の中でそう突っ込みながら、スプーンでバニラアイスをひと掬い。
白いアイスは少し溶けており、銀のスプーンの上に乗るとほんのり液状になる。緑色が混ざったそれを隼人くんの大きくあけられた口へ運び、彼がそれをしっかり咥えたのを確認してからスプーンを即座に引き抜いた。

「っ…そんな勢いよく抜かなくてもいいだろ?」
「だって!」

唇がスプーンの端に当たってちょっと痛かったらしいが、隼人くんは満足げだ。ブラウニーを食べた分の償いは十二分にできているようである。
時刻は12時近く。ちょうどランチタイムだ。昼食を取っているのは大人のひとばかりで、やっぱりここは少し学生にはお高い場所なのだな…と考える。
周りを見渡す私を「お腹がすいている」と判断したのか、隼人くんはテーブル下の棚に仕舞われていたメニューを取り出し、「なんか食うか」と言った。

「隼人くんまだパフェあるじゃん」
「…前菜ってことで」
「菜要素どこ?」
「バナナが入ってるだろ」

バナナは果物じゃないのか。この喫茶店のランチはパスタが多く、バリエーションが豊富だった。アボカドパスタなんていう緑まみれのそれに興味をそそられてしまった私はそれを注文し、まだ大きいパフェがあるというのに隼人くんはクリームパスタを注文した。この人の胃袋どうなってるんだ、というのは高校生の頃からの疑問だ。

「パスタ食べてからだとそれ溶けちゃわない?」
「これを先に食べるから大丈夫だよ」
「パスタが冷めるよ」
「心配しなくても、注文して届くまでには完食できるから」

…とてもじゃないが、10分やそこらで食べられそうな量じゃないように見えるんだけど。
だけど彼の食いっぷりには一年足らず付き合わされてきたので、もう突っ込む気力もない。隼人くんが大丈夫だというのだから、きっと大丈夫なんだと思う。
がんばってね、と大分アイスが溶け始めたメロンクリームソーダのストローを咥えると、何言ってんだよと隼人くんが明るい声をあげた。

「おめさんも食うのさ」

はい、と渡されたのはさっきのメロンクリームソーダのアイスを乗せた銀のスプーン…ではなく、隼人くんのパフェ用の長いスプーンだった。もちろん、先にはチョコアイスが乗っている。

「結局私に食わせるのかよ!」

なんだったんだ、さっきの公開処刑のような「あーん」は。
結局食わせるならアレいらなかったんじゃないか。
カリカリと怒りながら文句を並び立てる私に、隼人くんは頬杖をついて長いスプーンを持ったまま、にっこり笑って言った。

「だってせっかく付き合えたんだ。嬉しくて」

そういうことではない!




140320



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