スピーカー 高校を卒業して、お互い自分の道を歩き始めたオレたちが集まるのは今日が初めてだ。 レースで顔を合わせることがあっても、四人で机を囲むことなんてもう何ヶ月ぶりだろう。 久々にどうだと一斉送信されてきた隼人からのメールで決まったこの集まりは、神奈川の某居酒屋で展開されていた。 「しかしあれだな、久々にあってもあまり変わらんな」 「1年も経ってねェのに変わるかよ!つーか福ちゃんと新開にはこないだレースで会ったしヨ!」 「オレも寿一とは同じ大学だから新鮮味があまりないなあ」 せっかく集まったというのに、積もる話がないとはこれいかに。高校時代とかわらず、ダラダラと話をしながら箸で料理をつつく。 盛り上がることといえば後輩の話だろうか、アイツはあの大学を志望しているらしいとか、大学でも後輩になるかもしれないとか。 当然ながら殆どが高校生活の思い出話の延長線で、運ばれてきた焼き鳥に荒北が手を伸ばしたとき、ある一点に思い当たった。 高校三年生のときからよく姿を見るようになった彼女、そういえば、彼女はどうしているのだろうか。 「なあ隼人、そういえばみょうじちゃんはどうしているんだ?そういえば付き合い始めたのだろう」 「ん?なまえ?」 高校三年生の頃から急激に隼人と親しくなった女子、みょうじちゃんと隼人は卒業式の日から交際を開始した…と、後に聞いた。 どうしているのだろうと聞いたのがいけなかった。余裕たっぷりのにやつき顔、それをそのままみょうじちゃんに見せてやりたいくらいだ。 荒北なんかはイラっとして、眉間にシワを寄せている。その気持ちはよくわかるぞ、荒北。 この顔を見ただけで、今も十分仲良くやっているようだとわかった。お互い荒れるタイプではないから、あまり心配はしていなかったが。 緩みっぱなしの顔に荒北なんかは舌打ちを落としている。フクのヤツはなんだか興味ありげだ。 そのフクの気持ちを汲んで具体的に話を引き出してやると、それはもう幸せそうにのろけ始めた。 「オレ今一人暮らししてるんだけど…あ、その話は前にしたよな?それで、そこの最寄りとなまえの実家の最寄りが電車で一本なんだよ」 「へえ」 「だからよくうちに来て二人でいちゃいちゃしてるぜ」 「いちゃいちゃァ…?」 荒北がゲロ甘スイーツを食ったときのような顔で舌を出した。 思い出せるのは友達時代の二人だけなので、確かにオレもいちゃいちゃという言葉には疑問を感じる。 隼人は高校時代からそりゃもう周りから見ればわかりやすすぎるくらいにデレデレしていたが、みょうじちゃんは隼人に対して友達以上のなにかを持っていたようには見えなかった。 むしろ隼人の攻めも何てことない風にいなして、友達同士のスキンシップ程度にしか思っていなかった。そのせいで隼人は苦労していたようだが。 フクも不思議そうに、視線を彷徨わせている。 それ、一方的にやってるだけじゃ?という視線を一身に受けた隼人は普段鋭いくせに気づいていないのか、やっぱりニヤニヤしていて、恋は盲目とはこのことかと苦笑いをするばかりだった。 「かわいいぜ?よく疲れてオレのベッドで寝ちゃうんだけどさ、寝顔がまた、なんか子供っぽくなるんだよな。」 「寝込みを襲うのはやめた方がいいぞ」 「襲ってはないよ。まあ、写真くらいは撮らせてもらってるけど」 見る?と返事を聞かずに見せられた写メは確かに、久々に見る彼女の寝顔だ。 幸せそうに眠っている姿は、なんとなく小動物を思い出す。 『疲れて』という言葉に「疲れるようなことをしたのか」と聞きたくなったが、清純なイメージのあるみょうじちゃんのソウイウトコを想像したくなかったため、それは喉の奥に押し込んだ。 「キスはしたのか?」 「それは…春休み中に。な?寿一」 「ああ」 フクに目配せするということは、地元の秦野に戻った後に何かあったのだろう。フクの思い出し顔が隼人と相反して歪んでいるのは…。 そういえば隼人は課題を片付けるとフクの家に居座っていたんだったかと思い出し、そこで何かあったのだなと数ヶ月前のフクにご愁傷様と手を合わせた。 デートもほどほどに。忙しくなければ週一でウチに遊びに来る彼女。距離も近くて、急に寂しくなったなんて言えば飛んでいけるくらい。 正直、最高だと思う。隼人がこんなにやにやデレデレしたしまりのない顔でのろけてしまうのも仕方のないことだろう。 ただ一点、みょうじちゃんが心配だが。 「まあなんだ、その…仲良くな?」 「そォしろヨ、とばっちり食らうのはオレなんだからあんまり変なことすんじゃねェ」 「仲良くはもちろん、これ以上やりたいけど…」 荒北の言葉に隼人が、「靖友がなんで?」と視線を流す。 「お前、前にみょうじチャンが時間ないつってんのにひっついて離れなかったんだろ」 「なんで知ってるんだよ」 「隼人くんがね、って愚痴みてえなノロケが全部オレにきてんだヨ!アレやめろって言っといてくんナァイ?!」 荒北の怒声に、頭にタライが落ちてきたような衝撃を受けたらしい。でかい目をぱちぱちと瞬かせ、「そうか」と思案するように呟いた。 確かに荒北はなにかとみょうじちゃんの世話を焼いてはいたが、卒業してからもそれは続いているらしく、頻繁に連絡はとっているらしい。 オレには自分からメールしてこないのに!この美形に! 「嫌われても何もしてやんねェからな」 「肝に銘じておくよ」 「福ちゃんもあんまりやってたらとめてやってくれナァイ?」 「わかった」 「そこわかるのかよ」 いい意味でも悪い意味でも、隼人には有意義な集まりとなったらしい。 次に集まるまでには、もう少し進展しているだろうか。 みょうじちゃんには是非いろいろとがんばっていただきたいな。いろいろと、な! 140319 ← |