フロムアンノーン





どうしよう。
握りしめたあまりシワの寄ってしまった手紙。
もう秋だというのに手汗がすごくて少し湿っている気がする。
薄い桃色のそれには赤いハートのシールが貼られていて、ベタねとマキちゃんが呟くほど。
中身?読まなくてもわかった。

「ラブレター…ですかね」
「だろうね」

朝登校してきたら靴箱に。
もはや誰かのドッキリだろと言うくらいのベタさだ。
間違い手紙かと思ったが、丁寧に封筒の隅に几帳面な字で「みょうじなまえさまへ」と書かれている。
友達の悪ふざけかなと思ったけれど、マキちゃんも聞いていないらしいしそんなことするようないたずら好きの友人はいないはず。
残りは男子の無差別いたずらか、もしくはマジモンのラブレターか。

「そんなこと開けたらすぐわかる話じゃない」
「いやいや、もしかしたら女子からの妬みの手紙でカミソリが入ってたりとか」
「漫画の読みすぎ。開けないならあたしが開ける」

あっ、というが否やマキちゃんは封筒を奪い取り封を切った。
中身は封筒とおそろいの便箋で、カミソリはなさそうだ。

「突然こんなことをされて迷惑だとは思いますが、お許しください。
僕は2年の生徒です。みょうじ先輩のことを見かけて、一目で好きに…」
「わーわー!」

ラブレターでした。しかも後輩から。
マキちゃんから手紙を奪い返すと、それはそれは読むだけで恥ずかしくなるような言葉のオンパレード。
あなたの凛とした微笑みが僕の潤いです、てなんだ。凛とした微笑みなんてしたことない。

「2年みたいだけど、名前ないね」
「あれじゃない?言うだけ言いたかったみたいな。いいじゃないなまえあいされてるう」

あいされてるう、ではない。
どうしようこれ。文末にお返事はいりませんと書かれてあるが、返事しようと思ってもできないというのが本音だ。
ファンレターかなんかと思って受け取っておきなさいよとマキちゃんは言うが、この手紙は私にもやもやしたものを残した。
2年なら泉田くんが知ってるかな。あとで聞きに行こう。
そう思った時に教室のドアが開いて、朝練を終えた隼人くんがいた。
その後ろには、泉田くん。

「なまえ、おは」
「泉田くんいいところに!」
「えっボクですか?!」

隼人くんの挨拶を遮って泉田くんに駆け寄った。
面食らっている隼人くんに挨拶をしなおしてから、泉田くんの手をつかむ。

「突然だけど友達は多い方?」
「え、ボクはそんなに多くは…ユキのほうがそういうのは」
「黒田くんか!あんまし喋ったことないんだよなあ」
「どうしたんだよ朝から、とりあえず困ってるから離してやったら」

隼人くんの言葉にはっとして手を離した。
説明しなければ。私はさっきまた握りつぶした手紙を二人の前に出した。

「これは…」
「ラブレターってやつだな」

ラブレターってやつです。
差出人は2年生らしいから、泉田くんに心当たりがないかと尋ねてみた。
泉田くんは首を傾げてわかりませんと申し訳なさそうに言う。そりゃそうだよな、私だって3年の生徒みんな把握してないし。
HR開始の時間が押している。
泉田くんは隼人くんから何かを受け取る用で3年の教室に来たらしく、隼人くんは自分の机の横にかけてあるビニールを泉田くんに渡した。
去り際に「ユキに心当たりないか聞いて見ますね」と言われたので、期待することにする。

「なまえ」
「ん?」
「それ、返事するのか?」

差出人を突き止めて、ということらしい。
返信不要だったからしないよと言うと隼人くんは少し安心したように肩の力を抜いた。
私に恋人ができるのではと心配していたらしい。
残念ながら、誰かわからない方とお付き合いする度胸は私にはない。

「なまえに彼氏ができたら、友達でいられなくなるだろ」
「ええ、そんなことないよ」
「あるよ」

いつもより真剣な眼差し。チャイムが鳴って誤魔化されたけど、あの顔が妙に頭から離れない。



「そうなったら何するかわかんないからな、友達ヤメられちゃうかもな」



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まちこ様リクエストの友なろ番外編です!
なんかちょっと変な雰囲気になりました。ごめんなさい。たまには爽やかじゃない新開さんも…ということで!
140102



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